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33 名前:【SS】新聞広告 1/2[sage] 投稿日:2011/10/20(木) 20 22 12.86 ID nZhUPQVX0 [5/7] あやせ「今日は『新聞広告の日』です。 そういうわけで、お兄さんにはこの間の新聞広告についてお聞きしたいことがあります」 京介「急に呼び出すから何かと思えば…… この間の新聞広告と言うとマツダのアレか?」 あやせ「はい。お兄さんが全国に自分のアブノーマルな性癖をカミングアウトしたあの件です」 京介「アブノーマルな性癖のカミングアウトなんかしてねえよ! 大体あれは全国じゃなくて千葉限定だろ?」 あやせ「お兄さんは甘いですね。 一度広告に載ってしまったんですから、今ではもうネットで画像検索するとヒットしちゃいますよ」 京介「マジかよ……」 あやせ「それで、何故お兄さんが妹を性的な目で見る変態シスコン野郎だとカミングアウトしたのか知りたいんですが。 そもそも、どうしてお兄さんなんかがモデルになれたんですか?」 京介「なんかってのはひどくないか?」 京介(変態じゃないと誤解を解きたいが、それはできねえんだよな。 ……もしかして返答如何によっては埋められちまうのか?) あやせ「安心してください、お兄さん。 寂しくないように、隣に加奈子を埋めてあげますから」 京介「まったく安心できねえ!?」 あやせ「イヤなら、ちゃんとわたしが納得できる理由を言ってください」 京介「あやせ、おまえ誤解してるぜ。俺は別に妹が大好きだと公言したわけじゃないからな。 ほら、ちょっと前に桐乃がマツダのモデルをしただろ?」 あやせ「はい。わたしも桐乃の活躍を見たかったんですけど、残念ながらあの日は仕事があって行けませんでした……」 京介「その時、俺も偶然現場に居合わせたんだが、美咲さんとマツダの人に見つかってな。 そこでスカウトされたんだよ」 あやせ「お兄さんなんかをスカウト? どんなやり取りをしたんですか?」 京介「俺はもう18だろ? だから美咲さんにどんな車に乗りたいか聞かれたんだよ」 あやせ「なんて答えたんですか?」 京介「『せっかくだから妹を広告モデルに採用した千葉マツダを選ぶぜ!』」 あやせ「誤解も何も、ハッキリキッパリと言ってるじゃないですかぁぁぁ!!」 ドグシャ! 京介「ひでぶっ!」 あやせ「お兄さん、とうとう初対面の人にまで自分の変態性をアピールするようになりましたか」 京介「だから誤解だって! その場にマツダの人がいたんだから、ホンダとかトヨタとか言えねえだろ? 理由を聞かれても特に思いつかなかったから、こう言っただけだ!」 あやせ「思いつかなかったからといって、その理由を選ぶのはどうかと思いますけど……」 京介「でもあやせもマツダを選んじまうだろ?」 あやせ「う……確かに桐乃を大々的に採用して下さったマツダさんを選ぶと思います。 はぁ、仕方がありません。今回は目をつぶってあげますね」 京介「助かった……」 あやせ「埋めるのは加奈子だけにします」 京介「加奈子は埋めるの!?」 あやせ「それで、どうなったんですか?」 京介「加奈子の生死がスルーされた…… まあいいか。 それで、俺の答えを聞いた美咲さんとマツダの人が妙にツボに入ったらしくてな、後日俺を使うことに決まっちまったんだよ」 あやせ「そんな理由があったんですか……」 34 名前:【SS】新聞広告 2/2[sage] 投稿日:2011/10/20(木) 20 22 35.30 ID nZhUPQVX0 [6/7] 京介「……なあ、あやせ」 あやせ「なんですか?」 京介「モデルって大変なんだな。今回の件でよくわかったよ。 桐乃もあやせもすごいんだな。マジで尊敬するぜ」 あやせ「~~~! も、もう! 褒めても何も出ませんよ?」 京介「前にあやせがモデルデビューしたての頃、桐乃にずいぶん世話になったって言ってたけどよ、 そのありがたみがよくわかったわ」 あやせ「桐乃、本当に面倒見がいいですよね! わたしも初めは何度も助けられちゃって……今でも時々助けられてますけどね。 わたしもいつか桐乃を助けられるようになりたいです」 京介「桐乃も結構あやせに助けられてると思うぜ。 桐乃からよくあやせの話を聞くしな。 これからも桐乃と仲良くやってくれよな」 あやせ「言われなくても、わたしと桐乃の仲は永遠です! ……でも、そう言ってもらえると嬉しいです。 それで、お兄さんも桐乃に助けられたんですか?」 京介「ああ。撮影前に緊張しちまってガチガチになって何もわからなくなった時にな」 あやせ「わたしも初めはそうでした。 あの時桐乃に助けてもらったことは、絶対に忘れません」 京介「俺もそうだよ。 桐乃が俺を胸元に抱きしめて、 『あんたがどれだけ情けなく写ったとしても、絶対に笑わないから。 広告を見てバカにするやつがいても、そいつらに『そいつはあたしの自慢の兄貴だ』て胸を張って言えるから』 てな。 マジで泣きそうになるくらい嬉しかった」 あやせ「…………」 京介「ま、出来上がったのはこんな間抜けな広告だったけどな」 あやせ「……確かにお兄さんの顔は間抜け面だと思いますけど」 京介「ヒドっ!」 あやせ「でも、この広告は悪くないと思いますよ」 京介「……そっか。 それにしても、あやせもよくああしてもらってるのか?」 あやせ「なんのことです?」 京介「桐乃に何度もああやって抱かれたことがあるんだろ? 桐乃が後で言ってたぜ。 『勘違いしないでね。これはあやせが緊張してる時にもやってることだから』てな」 あやせ「……ええ。よくやってもらってますよ」 京介「そうか。桐乃にああしてもらえるなら、俺もモデルに―」ブツブツ あやせ「…………」 ・・・・・・後日、読者モデルの撮影にて・・・・・・ あやせ「ねえ桐乃……ちょっと緊張してきちゃった」 桐乃「あやせが緊張?久し振りだね」 あやせ「うん。それで緊張をほぐして欲しいんだけど……」 桐乃「何すればいい?」 あやせ「『前してくれたみたいに』ギュッとして?」 桐乃「前したみたいに?」 あやせ「うん。『わたしが緊張してる時にもやってること』でしょ?」ニコ 桐乃(京介のヤツ、あやせに喋ったな!?) 桐乃「そ、そうだったね! これでいい?」ギュッ あやせ「えへへ~」 あやせ(温かくて、柔らかくて、いい匂いがして……やっぱり桐乃は最高です!) -------------
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291723688/651-662 「あの…実は……相談があるんです。」 放課後。俺は瀬菜に呼び出され、1人校舎裏に来ていた。いや、厳密に言えば1人ではない。さっきから黒猫につけられてる気がする。さっき黒猫には、今日はちょっと用事があるから一緒に帰れない、と言っておいたのだが、なんか勘違いされてないか?浮気なんかしないよ、俺。 「ん?なんだ?」 つくづく“相談”という言葉に弱い俺である。 しかし瀬菜が相談ってなんだろう?ゲーム制作のことか?だったらわざわざ俺には…… 「ゲイ研のことです」 ゲー研?なんで俺に? 「これ、読んでください」 瀬菜はなにやら分厚い資料を渡してきた。黒猫の小説の設定資料かよ、ってくらいの厚さだ。ゲームのシナリオか何かだろう。表示にでかでかとこう書いてある。 ゲイ研の必要性と意義について 「ゲイ研ってなんだ?あ…ゲイって…まさかてめえ!」 まさか。まさか。ゲイ研って? 「ゲイ研究部のことですけど?」 そのまさかだった!最悪だ。 「てめえなんだよこれは?」 「あれ?知らないんですか?来年度から本校にはゲイ研ができるんですよ」 「できてたまるかーっ!」 「いやたまるかって言われても…」 ヤバい。瀬菜さん、目がマジですよ…。 いやまさかね。真面目に突っ込むと、んなもの生徒会に認証されるわけがねぇだろ!てかそんなの認められる学校とか、もう退学するレベルだろ。 「んなもの生徒会に許可されねえだろ!」 こんなに心からツッコむのは久しぶりだね。瀬菜のゲイ研が生徒会に許可されるわけがないってな。 「ですから、その資料のおかげで、無事認められたんですよ」 俺は渡された資料に目を落とした。これを生徒会に提出して、認められたってことなのか?いやあり得ねぇ。たしかに、「ゲイ研の必要性と意義について」というタイトルは、それらしいし、分厚い資料からは熱意を感じるが、これは熱意を感じるだけだ。 俺が生徒会役員だったら、ぜってい許可しねぇよ? 「読んでみてください」 いや読みたくねぇ。けど…ここで断るのもなんかアレだし。まあいっか。俺は表紙をめくって………… 「すまん瀬菜、吐き気が…」 俺はバサリと資料を落とし、その場にしゃがみこんだ。いやだって、1ページ目、目次の背景が、こともあろうかガチホモAVの写真ですよ。 もう無理。生理的に拒絶。資料を落とした拍子に別のページが見えたけど、男の写真が見えたよ?これを生徒会に提出するとか、狂気の沙汰だ。 ――――でもこれなら、これなら生徒会に認められても不思議じゃないね。たぶん、一般の人は目次でアウトだから、最後まで読んだのはホモに耐性がある人ばかりだろう。そんな人達だったら許可しかねない。 いや待て俺。いくらなんでもおかしいから。部を作るんだから、先生だって通すだろ。先生が許可するわけが… いま思い出したんだけど、あの先生、ノリが良いことで有名だけど、ホモって噂もあるんだった。 あのときは冗談だと思っていたが……もうやだこの学校。 「大丈夫ですか?」 大丈夫じゃねえ!お前のせいだからな! 吐き気でしゃべれないので、とりあえず首を横に振った。 「まあ、そういうわけなんで、せんぱいが知っている限りのゲイを集めてほしいんです」 どういうわけで!? 「あのなあ。俺だって一応受験生……いやそれ以前にぜってい協力しねえ!そもそも俺の知り合いにゲイはいねえよ?」 「……」 「わかったか?俺はもう行くから……って、なっ」 瀬菜が俺の肩をがっしりつかみ、耳にこう囁いてきた。 「協力してくれないなら、ここであなたにキスしちゃいますよ」 なんか背中に当たってる…。 おっぱいおっぱい。 「キスしちゃっていいんですかぁ?」 んな唐突に。意味分からん。 いや別にかまわないけどね。だってお前眼鏡だし、巨乳だし。てか脈絡なさすぎだろ! 「知りませんよ?」 何が?なんか瀬菜がちらちらと意味あり気に木がある方向を見ている。なんかいるのだろうか?そちらを見るとそこには…… 「あ…」 木の端から、黒髪がはみ出ている。そっか、黒猫がつけてきてたんだっけ。いやいや俺には黒猫がいるのに、なにをしようとしてたんだろう。男として情けない。 ん…?この状況で瀬菜にキスされたら絶対ヤバい。たぶん黒猫がすごい傷つくにちがいない。いやてか殺されるんじゃね?俺。瀬菜、悪いがお前とキスはできないぜ。 「瀬菜、すまないが俺には黒n」 「あれ?何か勘違いしてますね?今のは脅しですよ。さて、キスされるのと、おホモだちを集めるの、どちらがいいですか?」 えっ、ただの脅しだったのか。てっきり告白イベントかと思っちゃったぜ。あははははw そりゃあ黒猫を傷つけるくらいだったら、むしろおホモだちを連れてく……ってオイ。 「俺におホモだちなんていねえ!」 「分かりました、分かりました。あ、お兄ちゃん以外でお願いしますね」 「分かってねえ!?」 だめだこりゃ。 「やっぱりお兄ちゃんと…」 「意味分からないからな!」 俺はもうげんなりしてしまった。 ―――数日後、昼休み――― 「こうさかせんぱ~い」 「おお瀬菜、どうした?」 「単刀直入に言いますと…」 「ああ」 「部員が集まりません」 あたりめーだ。この学校にホモはいねぇ!てかいないでほしい。 「せんぱい、何か良い案はありませんか?」 「無い」 「即答ですか!?」 いや無理ですから。いないものは集まらない。あれ…でも…ゲイ研を認めた生徒会の中にホモがいるのでは? ……でも恐ろしくて瀬菜には言えない。 「お前さ、もしこの学校にホモが居たとしてもだ、そんな堂々と部活に入るか?だいたい、お前だって周りに腐女子だってばれちまうだろ?どうすんだ、そういうの。」 部活に入れば当然周りに知られてしまう。そこらへん、瀬菜は割り切ったのだろうか? 「え?………………きゃあああああああああああああ!!!」 「おい!お前………どうした!?」 「クラスメートにばれちゃう!」 「何を今更!」 「私って、結構熱くなるといろいろ忘れちゃうタイプで……ああ……どうしよう」 こいつマジで気づいてなかったの?ていうか、新設の部活を募集してたのって、1ヶ月前ですよね?1ヶ月ずっと熱くなってたのかよ!瀬菜さんマジパネェッス。 でも、物は考えようだ。これだけ1つのことに熱中して、あんな分厚いもん作れちゃうんだから、それはすげえよな。俺にはできねぇ。熱中しているものは少々アレだけど、決して俺みたいなやつがバカにできるもんじゃねえよ。 ――いかん、腐女子に対する(というよりガチホモに対する)抵抗感が薄れてきた気がする。少々どころじゃねえよ。 「せんぱい、どうすれば…」 「いいから泣きやめ、どうせもう手遅れだ」 「……そんな真壁せんぱいみたいな冷たい突っ込みしないでください」 いや、みたいなっていうか、完全に真壁くんの影響だわ。 「くっ……分かりました、それはこっちでなんとかします。せんぱい、ゲイをよろしくお願いしますね」 「拒否」 「もう…そんなこと言うと麻奈実さんに……」 「それだけはやめて!?」 麻奈実に「きょうちゃんってほもなの?」とか聞かれた日には俺は腹を切って死ぬ。しかもただ死ぬのではない。唯一神……もういいか。 「では♪」 瀬菜、なぜお前は嬉しそうなんだ? はあ……。もし井戸端会議で俺がホモだって噂になった時のために遺書でも書いておこう。 予鈴が鳴ったので、俺はそのまま教室に戻った。 その日の帰り道。黒猫はなんか用事があるっていうし、麻奈実も珍しく用事があるとか言って、今日は1人で帰っている。最近はいつも黒猫と一緒に帰っていたから、1人だけの帰り道ってのも新鮮だ。 そんなとき、唐突に携帯が震えだした。 ブー ブー ブー ブー 携帯を取り出して確認すると、なんとあやせからだった。 「もしもし?」 『あ、お兄さんですか。話は聞きました。今すぐ私の家に来てください』 「話?なんのことだ?」 なんか1つだけ心当たりがあるんだが……。 『知らんぷりしたって無駄ですよ。とにかく今すぐ来てください』 「あー、お前の家?公園じゃなくて?」 『公園はお巡りさんがいるから何もできないじゃないですか』 俺は何をされるの? 『では、ホモセクシュアルのお兄さん、さようなら』 うわっ。やっぱりだ。瀬菜→麻奈実→あやせかよ。死にたい。いっそ殺せ!てか情報伝達が早すぎだよ。 もう俺、一生立ち直れないかも。というより、俺の本能が、俺の一生が19年に満たないことを告げてるんだが。遺書、さっき書いとけば良かった。 俺がマジ泣きしながら歩いていると、いつのまにかあやせの家についていた。この緊張感というか恐怖はやばい。俺は門の前でさながら弁慶のように微動だにせずにいた。 ガキのころ、学校で悪さをして、そのまま家に帰って、いつ先生にバレて家に電話がくるかビクビクしている、あの気持ちだ。まあ今の例は実体験だけどね。 誰にでもあるよね、そういうの。 ガチャリ 突然後ろから手を押さえつけられ、手錠をはめられた。慌てて振り返るとそこにはあやせが。いやあやせさん、前回より荒っぽくありませんか? 「時刻1624、自宅前にて対象を確保」 あやせはなにかぼそぼそとつぶやいて、そのまま口になにか錠剤を押し込んできた。そのまま大量の水を飲まされる。 「ちょ…ゴボッ…いくらなんでも…ガボガボ」 なんか錠剤飲んじゃったよ。死ぬのかな、俺。 「お兄さん、ちょっといいですか?」 ガバッ いきなり口をガムテープで塞がれた。 「もがっ…もがっ…」 ガムテを取ろうにも、手錠で手が使えないため取れない。そう思っている間にも、あやせは慣れた手つきで俺の顔にぐるぐるガムテープを巻いていく。完全に口を塞がれてしまった。なんでこんなに慣れた手つきしてんの?怖いから聞かない…いや口塞がってて聞けないけど。 「もがっ!」 俺は一瞬の隙をついて駆け出した。なんとかして逃げなくては。今すぐ病院に行って胃洗浄してもらわないと死ぬ。 「おいっ!止まれっ!」 気がついたらあやせが俺の手首を掴んでいた。 「あー、あやせ?」 「お兄さん、大丈夫ですか?目が怯えてますよ」 いやお前に怯えているわけだけど。 「はいほううら、もうあいやい(大丈夫だ、問題ない)」 「じゃあ足も巻きますね」 「もがっー」 俺の叫びをガン無視して、足首をガムテープで固定するあやせ。 結局体をガムテープでぐるぐる巻きにされてしまった。これがミノムシの刑か。 ミノムシの刑――江戸時代にキリスト教徒に対して行われた。キリシタンは体を巻かれ、俵のように積み重ねられ、キリスト教を捨てなければ火をつけられたと云う――が現代に戻ってきたのか!あれ…てことは俺は火をつけられるのか? 「ではお兄さん、車に乗ってください」 あやせが指差す先を見ると(体ごと転がらなくてはならない)、いつぞやのメルルコスプレ大会で見たワゴン車が止まっていた。俺はそのままワゴン車に乗せられた。あやせも乗り込んでくる。 「運転手さん、お願いしまーす」 あやせさんマジ怖え~。俺はこのまま山に埋められるんだ、生き埋めだチクショー。 気がつくと周りは真っ暗だった。床に手をやると、剥き出しの床からコンクリートの感触が伝わってくる。とてもじめじめしていて、カビの匂いがする。 まるでコンクリートが全ての音を吸収しているかのような静けさ。目が覚めた時はさっきのが全部夢なんじゃねえかって思ったが、そんな希望的観測も一瞬で崩れちまった。 あれ、そういえばいつのまにか手錠とガムテープがはずされている。どうやら車の中で寝てしまったようだ。ああそうか、さっき飲まされた錠剤、睡眠薬だったんだな。 とりあえず何かないかと手を動かすが、コンクリート以外に手に当たるものはない。 「おーい、誰かいなイカ」 返事は無いとわかっているが、とりあえず声を出してみる。自分の声でもいいから、何か音がしないと、俺は孤独感と絶望感で泣いてしまいそうだ。 「おーい…………ぐすん」 やべ、涙出てきた。 「高坂……か……?」 幻聴まで聞こえる。こんな死に方あんまりだ。なんで?俺がなんか悪いことしたの?俺は平凡に生きてきたのに。 「……高坂だな?」 「ああ。お前は誰だ?俺を迎えに来たのか?」 「な!この…全部てめえのせいだ!」 バコッ 思い切り殴られた。頭がくらくらする。こいつ… 「この野郎!俺がちょっとボケたくらいでなんだその突っ込みは!」 バコッ また殴られた。なんで? 「高坂!てめえが迎えとか突っ込むとか言うからだよ!」 「は?どういう解釈をしてんだよお前は」 もう分かったと思うがこいつは俺の親友赤城である。こう言うと実は最初から赤城がいることを知っていたように思われかねないが、俺も今知った。 「高坂!てめえが学校中に自分は俺とおホモだちですとか変な噂広めるからこんなことに!」 「俺は何も広めてねえ!諸悪の根源はお前の妹だ!」 「瀬菜ちゃんは悪くない!瀬菜ちゃん可愛いよ!」 「……」 呆れてものも言えないわ。 「ちょっと話は変わるが……赤城、なんでお前がここにいるんだ?」 「ああ。それがな。部活が終わって、下校しようとしたら、校門に黒髪の可愛い女の子がいたんだ」 ああ、あやせか。 「俺が素通りしようとしたら、あいつが、『あなたが赤城浩平さん?』って聞いてきたんだ。俺が、『そうだ』って行ったら、『このガチホモ野郎が!そのふざけた性癖をぶち殺す!』とか言ってきてだな……」 …………。あやせ、性癖はぶち殺すものではないだろ。日本語がおかしいよ。 「急に凶器で頭を殴られたんだ」 「俺より手荒い!?」 殴られたって?まさか俺より酷い目にあったやつがいたとは。 「何で殴られたんだ?」 「冬コミのカタログ」 ………………………。俺も夏コミ経験者だし、一応カタログは知っているが…。あんな鈍器で殴られたのか? 「死にかねないだろ!」 「いや死ぬわけないでしょ」 「でも後遺症くらいは残るだろ!」 しかし冬コミのカタログか。冷静にやばいよな。いや待てよ? 「なんであやせがそんな物を?」 「あ?あやせ?」 「ああ、その女の子はあやせと言ってだな、俺の妹の親友兼俺のオナペッt……いやまあいいか」 「あんまり隠せてねえぞ……てか羨ましいなオイ」 「……」 なんかまずいことを言った気がする。気のせいだよね。 「で、あのな高坂、冬コミのカタログは俺が持っていた物だ。ちょうど参加サークルをチェックしてたんだ。いや、俺は別に行くつもりはなかったんだが、瀬菜ちゃんがどうしても行ってほしいって……。なんでも2人で分担するとか」 「っ…まさか……何日目に行くんだ?」 「1日目」 瀬菜って聞いた時点で察しはついていたが……。お前も良く行く気になったな。 「しかしその…あやせちゃんだっけ?よく俺のこと分かったな。やっぱり俺の顔がかっこよすぎたからかな?」 「801同人誌のサークルを眺めてるやつなんてお前くらいだ!」 お前は筋金入りのナルシストだな。 「同人誌じゃないって!俺が見てた団体は企業ブースだっつうの」 「変わらねえよ!」 こんな調子で、喉が枯れるまで突っ込んで、小一時間俺はホモじゃないと力説した後、俺たちは疲れからか、ついついうとうとしてしまった。 因みに俺も赤城も、身ぐるみ剥がされていた。つまり、外と連絡する手段はもうない。まあトイレはあるっぽいから、なんとか生き延びられる…と思う。 Day2 「高坂…?」 俺は赤城のこんな呼びかけで目を覚ました。 「ふああ…。どうした赤城」 「これ…」 赤城が指差す先には……。 「桃の缶詰と水…か……」 どこのチリ鉱山? 「いったい誰だろう」 「あやせだな。あいつだって俺たちを餓死させるのは気が引けたんだろう」 「怖えええ!そんな女だったのか?」 「これで14日間生き延びろと。そういうことだろうよ」 「……高坂?まさか後から追加で31人来たりはしないよな」 「…………」 たぶんそれは無いね。ホモか桐乃に手を出す変態があと31人いるなら別だけど。 こんな言い方すると俺がホモか変態みたいだが、んなわけあるか! ちなみに食事には2枚手紙がついていた。 『ガチホモのお兄さんへ。 あなたにはここで監禁生活を送ってもらいます。学校には桐乃から連絡させました。 …………中略………… あと一週間で更正できたら、そこから出してあげます。一週間で更正できなかったら……その時は覚悟してください』 ……。なんでお袋と親父が後一週間は旅行から帰ってこないことを、こいつが知ってるんだ?おい覚悟ってなんだよ。エロパロだったら「お兄さんをホモじゃなくすため!」とか言って俺とヤってくれるところだけど。 てか、あやせはリアルに俺と黒猫が付き合ってるって知らないのか? 「赤城、そっちには何て書いてある?」 「ああ…。なんか良く分からないが死ねってことらしい」 相変わらず酷いなおい。 まあそんな感じでまた1日が過ぎた。 Day3 いい加減、赤城に突っ込むのも飽きてきた。あ…いや突っ込むってのは、ボケツッコミの突っ込みだからな。勘違いすんなよ。 精神的にも辛い。俺の脳もようやく状況を理解してきた。これは酷い。まず普通にあやせは逮捕・監禁罪だ。思いっきり刑法220条にふれてるだろ。シャレにならねぇ。 ……シャレじゃないんだろうな、これ。 あと今思い出したが、麻奈実にホモだと思われてるんじゃないの、俺。マジ死にたい。 Day5 新しい食事が届けられた。 「なあ高坂。今回はずいぶんマシな食事だな」 「ああ。たぶんあやせの手作り料理だな。」 「はあ?手作り料理に消費期限は貼ってねぇよ」 期待した俺がバカだった。 「まあ、これで腹一杯食えるな」 「そのようだな……」 昨日からろくに食べてない。7日は持つように桃の缶詰を割り振ったのに、なぜか2日で無くなっちまった。夜中に缶詰盗み食いしようとして、缶詰食ってる赤城と鉢合わせした時は爆笑したぜ。 「なあ高坂?お前いま何か持ってる?」 「全部あやせに盗られたよ」 せめて携帯さえあれば警察呼べるのに。 「俺は1つだけ持ってるよ?」 「な、何をだ!?」 「オナホ」 「…………は?」 「たぶんあやせちゃんとやらも、男からこれを取り上げるのは可愛いそうだと思ったんだろうな」 それは断じて違う。単に汚いから触りたく無かったんじゃないの? 「赤城、だとしても何のオカズも無いぞ」 「心配するな高坂、俺は箸と茶碗さえあれば脳内補完して妄想が可能だ」 「何をどうするんだチクショー!」 …………なるほどな。瀬菜が守備範囲広いのはきっと遺伝的な問題だな。 「なあ高坂、オナホ貸してやろうか?」 「いらねえよ!」 「そっか。ならいいや。ちょっと一発抜いてくるわ」 「おい」 「ちょっと箸と茶碗を貸してくれ」 ……フォークとスプーン、箸と茶碗なんて誇張表現。そう思っていた時期が俺にもありました。 Day7 「赤城!今日がいよいよ最終日だぜ!」 「…………ああ…」 赤城の元気が無いのも無理はない。なぜならこの前から食糧の補給が途絶えている。補給を断たれたということは、あとはひたすら消耗していくのみである。特に赤城は、昨日、一昨日と抜いてるからなおさら消耗しているはずだ。 「赤城、起きろ、眠ったら死ぬぞ」 「………………ああ」 実は俺も結構欲求不満だ。だが、俺は抜いたりしない。思春期の中学2年生でもあるまいし、俺だって1週間くらい我慢できるっての。そもそも赤城が自制心なさすぎなんだよ。 今日が最後だと思うと、自然とツッコミにも力が入るな。これで普段の生活に戻れる。いつだが、「非日常」も悪くないと言ったけど、こんな「非日常」はうんざりだよ。 ――そんな時だった。赤城があの言葉を発したのは。 「や ら な い か ?」 「アッーーー!」 室内に、俺の悲鳴が響き渡った。 こうなることも、瀬菜によって計算しつくされていたに違いない。 あやせによる監禁生活から解放され、今日はその翌日の放課後。俺はいま下駄箱の前で黒猫を待っている。 何故かって?黒猫に伝えなくちゃいけないことがあるからだ。 「せ、先輩!」 「よう、瑠璃……話がある」 「これだけ心配をかけておいて……でも……」 ガバッ 「会いたかったわ」 黒猫が俺の胸に飛び込んでくる。 でも黒猫……。今日は… 「瑠璃」 「ふっ、人間風情の癖をして私に心配をかけるなんて……」 俺は抱きついてくる黒猫を無理やりはがした。 「せ…先輩?……京介?」 黒猫は、何か怯えた目をして、いつもは2人きりの時しか呼んでくれないその名前を呼ぶ。 「黒猫……実は……」 本当にすまないと思う。でも…… 「もうお前と付き合うことはできない」 これが本当の気持ちなんだ。 黒猫の目が大きく見開かれる。 「えっ?」 なにか救いを求めるような声。今のが自分の勘違いであってほしいと、そう思ってるに違いない。 「お前とはもう付き合えない」 黒猫はその場で固まった。そして、よろよろと後ずさり、下を向いて問いかけてくる。 「ど…ど…どうし…て…?」 「瑠璃」 俺は一拍おいて、こう言った。 「彼氏ができたんだ」 俺の名前は、高坂京介。近所の高校に通う18歳。 自分でいうのもなんだが、ごく平凡な男子高校生である。所属している部活はゲー研とゲイ研という、マイナーな部活だし、趣味も、ちょっと変わったアレを除いては、特筆するようなもんはない。 放課後はだいたい彼氏と町をぶらつきながらだべったり、家でホモゲやったり、ガチホモAV見たり。 ときにはまぁ…掘ったりもする。 ただ、最近、ふと頭をよぎることがある。 俺の人生、どこかで選択肢を間違えたと。 Die Ende.
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01-044 皆本 光一 001 サポートカード レアリティ ☆☆☆ 所属 B.A.B.E.L. フィールド能力: このマスにあるあなたの「明石 薫」と「野上 葵」と「三宮 紫穂」のATK+3000、DEF+3000。
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521 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 04 00.89 ID AkZboO+y0 [3/11] 10月といえば、行楽シーズンだよな。猫も杓子もやれ旅行だの、紅葉狩りだのといっては騒ぎやがって。 ――――俺は、旅行にも紅葉狩りにも縁の無い悲しき受験生だよ。特に今年の夏は、桐乃に散々振り回されて ……妹もののエロゲーを強制的にやらされたり、色々と訳あって夏コミに連れて行ったり。 「京介ぇ――、開けるわよ~」 「……お袋、いつも開けてから言うなよ。ノックしてから開けてくれって、頼んでんじゃねーか」 俺の部屋には鍵が掛からない。中学生の妹、桐乃の部屋には鍵が掛かるっていうのに。 「ごっめ~ん。今度から気を付けるわよ~」 『今度から気を付けるわよ~』は、お袋の常套句だ。気を付けたためしがねーじゃねーか。 「お袋、あんたワザとやってんじゃねーか? 大体いつもい……」 「それより、京介~……来週の土日暇でしょ? みんなでハイキング行く事になったから。あんた荷物持ちね」 「ぶふぉっ!!」 妹の桐乃といい、お袋といい、なんで家の女連中は……俺の予定も聞かないで勝手に物事を決めるかね。 だが悲しいかな、コイツ等が一度決まったって言う事を、俺が引っくり返せたためしはいまだ嘗て一度も無い。 「まあ、お袋がそういうなら決定事項なんだろう。でもみんなって? 親父……休み取れんの?」 「お父さんは働かせとけばいいのよ。わたしと、桐乃と、あやせちゃん……あと、荷物持ちのあんたね」 お袋と桐乃はともかく、あやせとハイキングってのはいいイベントだな。あやせとは最近、旨くいってるから、 このあたりであやせイベントを見事クリアして、一気にあやせの俺に対する高感度をだな……あれ? 「……そういや……お袋、いま土日って言ったよな? 泊まり?」 「そうよ、もう宿も予約したしね。まあ、小さな民宿だけど、今年から一応温泉もあるって事だし……」 それは一昨年の秋にお隣の奥さん連中と、小グループ旅行の際に一泊した民宿らしい。 「でもハイキングと言っても、そこそこの山道だから……それなりの準備はして置いて頂戴ね」 「10月と言ったって、山じゃ冷え込むだろうしな。俺、防寒着は最近新しいの買ったから平気だよ」 ――――土曜日午前9時、俺達は東京都西多摩郡奥多摩町の奥多摩駅に到着した。 「なあ、お袋、お袋も桐乃も教えてくれなかったけどさあ、その宿までどんくらいあんの?」 「ほんの10キロ程よ。……まあ、途中で休憩するから……そうね~……5、6時間だったかしら」 俺は歩く前から疲れたよ。10キロ……5、6時間……歩けと、隣で桐乃が軽蔑したように言った。 「あんたってさぁ~……ほんっと体力無いからね、ぷくく……」 「ほっとけ、お前みたいな陸上やってたヤツと一緒にすんな!」 行程10キロに亘る俺の難行苦行の旅が始まった。あやせイベント処の騒ぎじゃねーな。 522 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 04 48.09 ID AkZboO+y0 [4/11] 難行苦行の旅も半分ほど消化すると、秋晴れの好天に恵まれたこともあって、歩くのにも多少は慣れてきた。 ただ、暑いんだよな~。桐乃の格好は、ハイキングとあって流石に渋谷系ファッションではなく、ハーフパンツ にトレーナー、その上に登山用のヤッケ。あやせはキュロットスカートにセーター、そしてウインドブレーカー とどちらも軽装……と言っても、靴はそれぞれトレッキングシューズを履いていた。お袋は……まあ、いいか。 「ねえ、京介~……あんたの格好、それ暑くないの? いくら山の中とはいっても奥多摩よ」 「お袋、山の天気を嘗めない方がいいぜ、……あとで後悔すっから」 とは言いながら、やっぱ暑いので防寒着は脱いで片手で持ったけどな。その下にセーター着てるし。 「おば様~……今日はハイキングに誘って頂いて、本当にありがとうございます」 「あやせちゃん、そう言ってもらえると嬉しいわ~。たまにはこうして女同士だけでハイキングもいいでしょ」 俺も居るんだがと言い掛けて、ああ……俺は今日は荷物持ちだったっけ! ハイハイ、頭数に入ってないのね。 「あやせちゃん、荷物重かったら遠慮せずに京介に持たせていいから、そのための京介なんだから」 「いえいえ、おば様、わたしの荷物は軽いですから全然平気です」 流石あやせだよ。桐乃なんて家を出た時からずっと俺に持たせて、自分は手ぶらなんだからよ。兄貴の俺をなん だと思ってんだかね。……これじゃ夏コミの時と同じじゃねーか。 「ねぇ~あんたさ~……あやせの荷物も持ってやりたいんじゃないの。ぷくく、だってあんたは黒髪ロン……」 「ほっとけ! それ以上俺を辱めると、お前の荷物持ってやんねーぞ!」 「ふ~ん、なにマジになってんだか……冗談に決まってんじゃん!」 先が思い遣られるとはこの事だな。まあ、景色も良いし空は何処までも澄み渡ってるし、気分転換にはいいか。 この舗装道路をもう少し行くと林道に入るって……さっきお袋が言っていた。――――それがあのような事態を 惹起するとは……その時、俺達の誰一人として全く予想もしていなかった。 ――――舗装された国道を外れ、俺達は多摩川の源流である奥多摩湖へと続く林道へ…… 「景色が良いですね~おば様。東京にこんな所があるなんて、わたし知りませんでした」 「この林道から宿まではずっと落ち葉を踏みしめながらって、感じかしらね~」 確かに景色も良いし、紅葉も綺麗だよ。でも、アスファルトに慣れた俺には歩き辛くってしょうがねえよ。 「あやせちゃんも桐乃も足元に気を付けてね」 「ありがとうございます。おば様」 あやせは確かに足元に注意しながら歩いちゃいるが、それに較べて桐乃はまあ……なんつーか流石に元陸上選手 だよな。すっげー軽やかと言うか、多少のデコボコなんて全く気にしちゃいねーで歩いてやんの。 「なあ~、お袋~、あとどんくらいあんの?」 「あら、もう音を上げたの? ……三分の二は超えたと思うから……そうね……この先に分れ道が見えきたら そこから一時間半くらいかしら。もうちょっとよ」 523 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 06 04.89 ID AkZboO+y0 [5/11] 終わりの目処が見えるってのは、本当に良いもんだよ。宿に着いたら、先ず風呂だな、温泉って言ってたしな。 そういや、俺ん家が家族旅行なんてしたのはいつが最後だったけ? 妹の桐乃との関係がギクシャクしちまって からはお袋も親父も、家族旅行なんて言い出さなくなっちまったし――俺が中学生になって以来…… 「ねぇ~……あんたさー、家が最後に家族旅行に行ったのっていつだったか覚えてる?」 桐乃も同じ事を考えてやがったのか。まあ兄妹だしな、こんなハイキングなんか来りゃそう思うかも知んねえ。 そういや……俺達兄妹はなんで仲が悪くなっちまったんだろうな? 俺が中学に入った頃からだよな?…… 「まあ、あんたじゃ覚えてないか? バカだしぃ」 桐乃が今さらっと、何か俺の悪口を言った様だが聞き逃しちまった。まあ、いつもの事だから気にしねえがな。 別に考え事をしていたってのもあるが、いま通り過ぎた林の奥に何かあったんだよね。薄緑色っつーか、四角 っぽい何かが……少しだけ丘になったその先の向こうに……頭だけ見えたんだ。見覚えがあんだけど…… 「ほらほら、京介! あそこ見て! 見えてきたわよ。分かれ道」 「じゃあ、お袋……あと一時間半ってところか?」 ――――分かれ道まで来るとお袋は何故か立ち止まってしまった。 「……………………どっちだったかしら……?」 「おいおい、待ってくれよ。三差路だぜ……覚えてないのかよ。」 「えーと……ちょっと待ってね……今思い出すから。…………ああ、こっちよこっち」 勘弁して欲しいもんだ。そう、なにを隠そうお袋は極度の方向音痴である。自慢するわけじゃないがな。 「京介~……お母さんを信用しなさい。この道で間違いないから……うん、思い出したわ」 「お母さんの方向音痴は昔っからだもんね~。アハハハハ」 お袋の記憶を信じて三差路を右手へ進む、林道の中だと何処まで歩いて行っても同じ様な景色に見えちまって、 俺は少しいやな不安を覚えた。だがそんな不安をよそに桐乃がお袋に話し掛ける。 「ねえ、お母さん? 二年前に来た時もやっぱこんな感じ?」 「そうねぇ~……その時はお隣の奥さんが道案内だったけど……まあ、こんな感じね」 そういう他人まかせが一番アブねーんだよ。俺も詳しくはねーが、こういう林道ってのは始終新しく造られたり 廃道になったりするんだと沙織が言っていた。沙織っていうのは……桐乃のオタ友で、俺にとっても大切な友人 の一人だ。 『京介氏、……木と木を擦り合わせて、火を点ける方法を教えてしんぜましょう。いつかは役立ちますぞ!』 ざけんな! 今時そんな方法で火を点ける必要が何処にあるんだよ。沙織のオタク趣味は多岐に渡る。アニメを 始め、ゲームにプラモに……サバゲー、……要はサバイバルゲームの中での野戦訓練中に身に付けたそうだ。 『京介氏、……万が一、通信手段が断たれた時にはですな……』 524 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 06 59.43 ID AkZboO+y0 [6/11] 沙織は俺達と会う時はいつもぐるぐる眼鏡を掛けちゃいるが、それを取ると素顔はすげー美人なんだ。 あいつは、恥ずかしがり屋で――俺が何となく沙織のことを思い浮かべてニヤニヤしながら歩いていると…… 「あっ! あやせ! 大丈夫!?」 桐乃が驚いて声を上げた。あやせは桐乃の身体にしがみ付く様な格好になったままバランスを崩した。二人の 後ろを歩いていた俺も、沙織のことを思い浮かべていたために、何があったのか状況が分からなかった。 「うっ、……きっ、桐乃ー……あっ、足首を……捻っちゃったみたいなの……」 「あ、あやせっ! ……と、兎に角ここに座って……」 あやせは、道の轍に足を取られて足首を捻ったようだ。桐乃が抱きかかえる様にして、ゆっくりとあやせを地面 に座らせた。両手で右足を引き寄せ抱え込む様にして、足首を押さえる。あやせの顔が痛みに歪む。 「あやせちゃん! 大丈夫!?」 「ご、ごめんなさい。おば様……そこで足を取られちゃって……っうーつぅ」 お袋が自分のリュックを肩から下ろし、ガサゴソと慌ててリュックの中から救急セットを取り出した。今回は、 ハイキングということもあり、念のため簡単な救急セットを持って来ていた。 「あやせ、ちょっと診せて!!」 手早くあやせのトレッキングシューズの編上げ状の靴紐を解き、靴を脱がせた。 「うーん……やっぱ、少し腫れてきたね。……お母さん! シップ薬ある!? 兎に角……冷やすヤツ!!」 「ちょ、ちょっと待って、……桐乃……えーと、冷えピタクールで大丈夫?」 「うん、それでもいい! …………あやせ、ちょっと我慢してね」 桐乃の余りにも手際の良い応急処置に、俺はただ唖然とするばかりだった。『流石、元陸上部だな』などと 揶揄するのが憚れるほど、桐乃の表情は真剣そのものだった。桐乃があやせに優しく声を掛ける。 「あやせ……少し捻っただけで、捻挫ほど酷くは無いと思う。……でも、しばらくするともう少し腫れて、 痛みが増すから、このまま動かさない方がいいよ」 「……うん、分かった。……ありがとう、桐乃」 怪我による痛みなのか……親友の掛値なしの優しさに触れたからなのか、あやせは少し涙目になっていた。 「兎に角、あやせちゃんをこれ以上歩かせる訳にはいかないわね……」 桐乃があやせを手当する様子を見ていたお袋がそう言うと、桐乃が俺を見て凄い形相で睨み付けてきた。 「あんた、どうにかしなさいよ! こんな時のためにあんたがいるんでしょ!」 そう言われてもな桐乃? 何とかして遣りてーけど……俺にどうしろと…… 「そうだ、お袋……宿に連絡して車で迎えに来て貰えないかな? ここは林道だから車でも走れるし……」 525 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 07 42.14 ID AkZboO+y0 [7/11] お袋は元々、携帯を持って無いから、桐乃が自分の携帯をヤッケのポケットから取出し…… 「あぁ――――、圏外だ!! なんでauだめなのよー!! もうー信じらんない!!」 「桐乃ー……わたしのdocomoだけど、やっぱり圏外……」 あやせも自分の携帯を確認する。俺も慌てて防寒着のポケットに入れていた携帯を取出し…… 「なぁ、桐乃……俺の携帯、ソフ……」 「「「 却下!!! 」」」 なっ、なんで携帯持ってねーお袋まで言うんだよ。だが、携帯が通じない以上、あやせを除く俺達三人のうち、 誰か宿まで行って車を出して貰わなきゃいけねぇ。いや……超方向音痴のお袋を一人で行かすのは危険すぎる。 となるとだ……俺か桐乃のどちらかがお袋に付いて行きゃーいいんだな。 「京介、あんたがあやせちゃんに付き添ってあげて。それから桐乃はお母さんと一緒に宿まで来て頂戴」 「お、お母さん! なんでコイツがあやせに付いてなきゃいけないのよ! あやせにはあたしが……」 お袋は自分が方向音痴なのを良く認識している。俺もお袋には、俺か桐乃のどちらかが付いて行かなきゃとは 思っちゃいたが……桐乃が言うのももっともだ。何故、俺があやせに? 「お母~さん! だってあやせは歩けないんだよ……そんなあやせの傍にコイツを置いてっ……」 「聞きなさいっ!! 桐乃!!」 お袋がこんな剣幕で怒るのなんて、滅多にねぇよな。いつだったか、桐乃が御鏡を彼氏だって偽って家に連れて 来たんで、俺と桐乃の間でひと悶着があった時以来じゃねえか? 「いい? 桐乃、お母さんの話をよく聞いて。……お母さんはね、桐乃が残る方が危ないと思うの。だって、 あなた達はまだ中学生なんだもの。それも女の子二人だけを、こんな寂しい林道に残すなんてできないの」 「でっ、でも! ……お母さん!」 桐乃もお袋の言いたい事は十分に分かるのだろう。確かにこんな寂しい林道に女子中学生だけで……??? そういや、ずっと思ってたんだが、この林道……寂しすぎないか? 大体、林道なのにさっきから車は愚か人っ子ひとり通りゃしねーし、沙織から以前聞いたことのある廃道って、 まさにこういう道を言うんじゃ…… 「なぁ、お袋が二年前にご近所の奥さん連中と来たって時も、こんな寂しい感じだったのか?」 「そんな事あるわけ無いじゃない。あの時は紅葉狩りシーズンだったのよ、もっとたくさん人がいたわよ」 「じゃあ聞くが、俺達はここに何しに来たんだっけ? 今お袋が言った紅葉狩りじゃなかったけ?」 お袋はしまったという顔をして、あさっての方を見ている。眼が泳いでるじゃねーか! 「お、お母さん! お母ーさんが道、間違ったんだね!」 「桐乃、何を言い出すの? お母さん……方角は間違ってないわよ」 こういうのを、イケシャアシャアと言うんだろうな。お宿は駅から見て西の方角にありますって言われてさ、 こんな山と林しかないところで……誰が辿り着くってんだよ。 526 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 10 07.27 ID AkZboO+y0 [8/11] 「京介、京介もお母さんが道を間違えたと思ってるんでしょ? 前に来た時はお隣の奥さんに道案内されて 来たんだもの、お母さんを責めるのはお門違いと言うものよ。……でも確かにこういう道だったのよ~」 お袋のヤツ……開き直りやがった。 「おい、桐乃……お袋が道を間違えたのに違いねぇと思う。でも今更いってもしゃあねぇよ。こうなったら、 お袋の言う通りお前がお袋に付いてってくれ、お前なら先に走ってって宿を探すことも出来るだろうからよ」 桐乃はまだ言い足りない様な顔をしていたが、西の空を見て諦めたらしい。日が沈み始めていたからだ。 「じゃ、じゃあ! あんた! ま、万が一あやせに変な事したら、ただじゃ置かないからね!!」 「そんな事、言われなくったって何もしやしねぇよ。それよりも、桐乃、お前のリュックを持ってってくれ」 あやせはと見ると、……お袋と桐乃の親子喧嘩の原因がまるで自分の所為だとも言う様に、もう涙目だった。 すったもんだの末、お袋と桐乃はそのまま道を進み、俺とあやせはその場で迎えを待つ事になった。 「3時か……、まずいな」 俺は携帯の時計を確認して呟いた。せめて宿への方角が正しくて、本来の林道と乖離していなかったとしても、 往きに一時間半、いや二時間……その後、宿の車で迎えに来てくれたとして……5時過ぎちまうな。 「お、お兄さん? 何を考えているんですか? ……何か心配なことがあるんですか?」 あやせが不安になるのも無理はねぇよな。お袋たちは行っちまったし自分は歩けねぇ、それでこんな…… 人っ子ひとり通らない様な林道に俺と二人きりにされりゃ……そりゃ不安にもなるわな。 「あやせ、心配すんな。お袋たちが宿に着いたら、直ぐに車で迎えに来てくれるだろうしな……それよりも、 足の具合はどうだ? ……救急セットは置いてって貰ったから……冷えピタクール替えるか?」 「まだ大丈夫です。……それよりもお兄さん、ごめんなさい。……わたしが怪我なんかしたばっかりに」 「そんな事で謝んなって。……誰も怪我をしたくてするヤツなんかいねぇよ」 あやせって子は人一倍責任感の強い子だ。知り合ってまだ、一年ちょっとの俺でもあやせの性格はそこそこ 分かっているつもりだ。それよりも、今はあやせの足の痛みを紛らわせるためにも、少しからかってやるか。 「なあ、あやせ、……もしこのままお袋達が戻って来なかったらどうする?」 「お、お兄さんは何を考えているんですか! もし如何わしい事を考えているなら……ぶち殺しますよ!!」 あやせは顔を真っ赤にして怒った。……やっと、いつものあやせらしい言葉が出てきたよ。だが、まだまだ。 「そういうけどな、……俺がお前にぶち殺されて、おれの死体がここに転がってても……お前は動けないん だから、犯人はあやせ以外に考えられねー訳だぜ」 そこまで言われて、あやせはやっと自分がからかわれている事に気付いたらしい。俺を上目遣いでキュッ! と 睨み、口を窄めて言った。 「お兄さん、わたしの事からかったんですね! もう、ぶち殺し……ブツブツブツ」 527 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 10 52.51 ID AkZboO+y0 [9/11] やっとあやせに、いつもの笑顔が戻ってきた。……あやせ、お前はそうやって笑顔でいる方が似合っているよ。 俺達はそれから暫く、学校の事や友達の事など他愛も無い世間話をしていた。 お袋と桐乃がここを発って、すでに一時間半が経過していた。たとえ二人が宿へ直接辿り着かなかったとしても 奥多摩湖の外周をぐるっと囲んでいる国道へ出られれば、車も走っているだろうし携帯も繋がるだろう。 「お、お兄さん……あれ何でしょうか?」 あやせが俺の背後、それもかなり遠くを見る眼でボソッと呟いた。俺は立ち上がってあやせが見ていた方角へ 眼をやった。山の天気は変わりやすいとは良く言ったもんだ。おれは、あやせに言った。 「――――――霧だ」 お袋が言っていた宿の方角には、薄っすらとした霧が懸かっていた。それよりも問題は俺達が歩いて来た方角に かなり濃い霧が懸かり始めていた事だった。風はほぼ無風状態。これじゃあ、霧が晴れるには時間が掛かる。 下手をすりゃ霧に囲まれて、それこそ身動きが取れなくなっちまう。――――考えるんだ俺。 「お兄さん、何だか……霧が濃くなってきてるように思うんですが?」 「……あやせ、いいか聞いてくれ。これから俺は来た道を少し戻る」 「お、お兄さん……どこへ行くつもりですか!?」 あやせが不安になるのは当然の事だろう。だが、俺だって確信があるわけじゃなかった……さっき来るとき見た あれは、俺の遠い記憶の片隅にあるものと重なる様な気がしてしょうがなかった。 「あやせ、直ぐ戻る。そうだな……十分、いや二十分待っててくれ」 「ほ、本当に二十分待っていれば、お兄さん……戻って来てくれるんですね?」 「ああ、約束する。あやせ、お前をこんな所に……置き去りにするわけがねぇだろ。……必ず戻る」 あやせは涙目になって、今にも泣きそうだった。俺はあやせの頭にポンと手のひらを載せ、あやせに約束した。 「あやせ…………俺を信じろ」 あやせは必死で泣きそうになるのを堪えて、おれの瞳を真っ直ぐに見つめ頷いた。 「お兄さん……わたし待っていますから! 必ず戻って来て下さい」 後ろ髪惹かれるとは、こういう事を言うのかもしれねぇな。怪我をしていて歩けねぇわずか十五歳の女の子を、 車も人も通らねぇ様な林道に置き去りに出来る男が何処にいるよ。それも、もうすぐ日が暮れようとしていて、 おまけに霧まで発生してるってのによ。――――だが、あやせのためにも遣れる事はやってやりてぇ。 ――――来る途中に通って来たあの三差路まで俺は全力で駆け出した。来る時にはお袋達の後を付いて行きゃ いいぐらいの感覚で歩いていたから気が付かなかったが、よく見りゃ幾筋かの脇道がはしってやがる。下手に そんな道に入ったら、あやせの元へ戻れなくなる。 森や林の中で道に迷わない方法は……っと――沙織!お前に感謝するぜ、サバゲーの講義が役立つとはな。 528 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 11 38.47 ID AkZboO+y0 [10/11] 俺は多少暗くなろうとも分かるような目印を、林道の所々に付けながらあの場所へ急いだ。三差路を戻ること 数百メートル……林の奥の少しだけ丘になった、その先の向こうに見えたあの薄緑色の四角い…… 息が切れそうになるのも構わず、俺は林の奥へ分け入りその丘を登り――『よしゃ! やっぱそうだ!』 それを確認すると、踵を返しあやせの元へ駆け戻った。と、言いたいところだが、日頃の運動不足の所為で体力 が続かず、あやせの元へ戻る頃には殆ど歩いているのと変わらなかった。 あやせは待っていた。まあ正直、動きたくても動けねぇんだけどな。膝を抱え身体を丸め怯えているのが…… 遠目からでも分かったよ。 「あ! おっ、お兄さん!! …………っうう……うぇっうっ」 泣きじゃくって、言葉にならなかったよ。――――すまなかったな、あやせ。 「……も、もう! ほ、本当に……置き去りに……されたのかと……っうう……うぇっうっ」 やっとの思いでそこまであやせは言った後、また泣いてしまった。――――許せあやせ! もうこうするしか、 俺はあやせの前に両膝を突くと……あやせを力いっぱい抱き締めた。 「お、お兄さん……ぜっ、絶対に…………ぶ、ぶち殺しますぅ……っうう」 俺にしがみ付いて、また泣きじゃくるあやせ。そりゃ怖いよな……完全に日は落ちてるし、霧は更に濃くなって きたしな。だがな……俺がお前を置き去りになんて、するわけねぇだろ。 「落ち着け、あやせ……いいかよく聞いてくれ。ここから少し戻った所に、小さな神社の御社がある」 「……お兄さん、おやしろ? ……ってなんですか?」 「あやせは知らねぇかな? 御社ってのは……うーん、要は神様を祭ってある小さな建物みたいなもんなんだ」 「その御社が……なんなんでしょう?」 神社の御社を知らないあやせに、それを説明するは一苦労だった。まあそういう建物があるから、こんな所に いつまでもいたってしょうがねぇし、このままじゃ風邪を引いちまうって事を説明して納得してもらった。 「分かりました。お兄さん……でも桐乃達が迎えに来て、わたし達が居なかったら心配するんじゃ……」 「多分この霧じゃ、車は走れねぇと思うけどな……確かにあやせの言う事にも一理ある――よし、俺に任せろ」 俺達がこの場を離れ、入れ違いに桐乃達がここへ来たら余計に問題が大きくなっちまう。 「お兄さん? ……どうするんですか? 携帯は通じないんですよ?」 「あやせ、なんか書くもんねぇかな……色が付けられりゃ何でもいい――――化粧道具持ってるか?」 ピクニックへ行くのに、わざわざ筆記用具なんて持って行くヤツなんかいねえよな。 「……口紅でもいいですか?」 「上等だ。使えなくなっちまうが……いいか?」 あやせに了承を得て、俺は手持ちの白いタオルに口紅で文字を書いた。 529 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 12 22.34 ID AkZboO+y0 [11/11] ――コノサキ ノ ジンジャ ノ ヤシロニ イル キョウスケ アヤセ―― そのタオルを林道の真ん中に広げ、風で飛ばねぇように四隅に石を置いた。 「よし、こんなもんだろ。……あやせ、俺の背中に乗れ」 「えっ! で、でも……お兄さん」 俺が背中に乗れと言うとあやせは躊躇していたが、今は四の五の言っている場合じゃなかった。これ以上霧が 濃くなったらまともに歩けなくなっちまう。それを説明するとあやせは、遠慮がちに俺に負んぶされた。 ――さて、また戻るか。 往きに付けた目印を頼りに、あやせを負んぶしながら林道をゆっくり進んだ。こんな所で転んだりしたら、 足首を怪我しているあやせを更に苦しめる事になっちまう。 「お兄さん……大丈夫ですか? わたし、重くないですか?」 「大丈夫だ、軽いもんだ……」 だけどな、お前の胸がさっきから俺の背中に当たってるのは、……俺にとっちゃ大丈夫じゃねぇけどな。 「お兄さん、本当にごめんなさい……」 本来なら、あやせを負んぶしているこの状況――――俺の妄想モードは最大出力になるはず何だが、俺の胸には 何故か暖かく、そして懐かしい気持ちで満ちていた。…………遠い昔、桐乃をこうして背負ったっけ…… 「着いたぞ……あやせ」 「ここがお兄さんの言っていた……御社? ですか?」 賽銭箱の脇を通って階段を5段程上がり、格子が嵌め込まれた扉を開け、あやせを背負ったまま中に入った。 「おっ、おっ、お兄さん! わたしをこんな所へ連れ込んで……な、何を考えているんですか!」 俺の背中で大暴れするあやせ。頭を張り倒されながら今の状況を説明する俺……。 「何を考えてるかって……お前とここで、一夜を過ごそうとだな……」 「変態! 変態! 変態! そういうのは……もっとわたしが大人になって……ブツブツブツ……」 あやせがえらい剣幕で俺の頭をボカスカ殴りながら喋るもんだから、『変態!』以外聞き取れなかったが…… なんとか今の状況を説明する俺。 「よく聞いてくれあやせ、あのままじゃ俺達は凍え死んじまう。山ん中や湖の近くってのは、あやせが思ってる より夜は冷えるんだよ。ここならさっきの場所よりかは幾分ましなんだ」 俺の必死の説得に、ようやく俺を殴るのを止め…… 530 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 13 07.71 ID AkZboO+y0 [12/14] 「お兄さんの説明はわかりました。……で、でも、少しでも変な真似をしたら通報しますから!」 通報できねぇからこんなんなってるんじゃねぇかとは……流石に言えず、俺はあやせを壁際に座らせた。 「お兄さんは、そっちの壁際に座って下さい。……絶対にそこから動かないで下さいね!」 「あいよ、あやせ……」 あやせはそう言うけどさぁ……タタミ2畳分もねぇスペースで、こっちの壁もそっちも壁もないと思うよ。 「お兄さん、ちよっとでも動いたら……通報しますから」 そう言ってから、あやせは両膝を抱えて俯き溜息を吐いた。キュロットスカートから覗く、あやせの白い太股に 眼が行きそうになるのを必死に堪え、俺はあやせの頭の遥か上の方を見つめていた。――時間だけが経過する。 「…………さん、…………下さい」 俺は歩き疲れていた事もあって、あやせが何を言ったのか聞き逃した。 「悪いあやせ、よく聞こえなかった。……もう一度言ってくれ」 あやせが躊躇いがちに、口を開く。 「……お兄さん、……抱いて下さい」 「ぶっふぉっ!! ……あ、あやせ? ……い、いまなんつった!?」 「わたしを抱いて下さいと……言ったんですぅ!」 絶ってーにあり得ねーあやせの言葉に、俺の脳ミソはパニックを起こし掛けている。俺が驚愕の眼であやせを 見つめていると、――――あやせは上目遣いで口を尖らせながら、ボソボソと言い訳を始めた。 「い、以前テレビで視た事があるんです……あの……その…………わ、わたし、寒いんです!!」 納得。確かにドラマなんかではありがちな設定だよな――――雪山なんかで遭難して、寒さを凌ぐ為に男女が肌 を寄せ逢うってのが。俺がそんな妄想をしている事を察知したのか、あやせは顔を真っ赤にして怒り始めた。 「け、け、穢らわしい! お兄さん! 何を考えているんですか!」 「お、お前が……抱いてくれって、い、いま言ったんじゃねーか!」 「た、確かにわたしそう言いましたけど……お、お兄さんが考えている様ないやらしい意味で言ったんじゃ ありませんから!!」 確かに俺は、ちょっとエッチな事を考えちまった事は正直に認めるよ。でもよ、大して変わんねーと思わね? 大体、この状況で男がだよ、女の子から『抱いて下さい』って言われて、他に何を想像すんだよ。 「…………で、あやせが俺の方に来んのか?」 「お、お兄さんが……こ、こっちに来て下さい」 俺は――――『エッチな事なんて、全っ然考えていませんよ~~~』って顔を必死に作りながら立ち上がった。 531 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 13 52.98 ID AkZboO+y0 [13/14] 「あいよ、あやせ」 真っ暗って程でもないが、電灯も無いんで足元を確かめる様に俺はあやせに近づき、横にそっと腰を下ろした。 「で、俺はどーすりゃいいんだ?」 「そ、それを女のわたしに言わせるんですか!? ……へ、へ、変態!!」 「お、お前なー……その言い方はねーだろー……まあいい、じゃあ……これでどうだ?」 俺は、あやせの肩を抱き寄せる様に後ろから左腕を廻した。あやせの肩がキュッ!と締まり、小刻みに震えて いるのが伝わってきた。 「あやせ、……寒くてずっと我慢してたんだろ? ……少しはマシになったか?」 「………………」 あやせは、自分の両膝を抱え込み身体を丸めた。顔は更に赤くなり――――だが、身体の震えは止まらない。 「お、お兄さん…………まだ寒いです」 「……寒いって言われてもなぁ……」 俺にこれ以上どーしろって言うの? この御社の壁を引っぺがして焚き火でもしろと? 「て、テレビでやっていた様にして下さい……」 「あやせ、テレビでやってた様にと言われてもなぁ。……すまん、俺は多分そのテレビを視ていない」 そう言ってやるとあやせは俺からいったん身体を離して、ウインドブレーカーを脱ぎ出した。 「…………お兄さんも脱いで下さい!」 「あ、あやせ!? お、お前は何を言い出すんだ!?」 俺の言葉に一瞬、???と言う顔をしたかと思ったら……顔を耳まで真っ赤にして怒り始めた。 「へ、へ、変態!変態!変態! …………何を勘違いしているんですか!!」 「おっ、お前が! 急に服を脱ぎ出したんじゃねーか!!」 あやせは俺を思いっきり平手打ちした後、説明を始めた。――――俺の右頬が熱い…… 「よく聞いて下さいよ! お兄さんが上着を脱いで……そ、それから……わたしを……だ、抱いて下さい。 ……そうしたら、お兄さんの上着をわたしの上から掛けて下さい」 要するに、あやせの言いたい事はこうだ。上着を着たまま身体を寄せ合ってても寒い。だからそれらを脱いで、 出来るだけお互いを密着させてから上着を羽織った方が暖かい…… 「いいですか、お兄さん! これは絶対的に信用ですからね!絶対ですよ!」 「わ、分かった……頑張ってみるよ……」 この状態でどう頑張れって言うんだよ! こんな美人で可愛い女子中学生を抱いたままで! ――――俺。 532 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 14 37.44 ID AkZboO+y0 [14/14] まあそれでも、あやせが脱いだウインドブレーカーをあやせの膝下に掛けてやり、俺はあやせを右腕で抱き止 める様にして二人の上から俺の上着を羽織った。――――確かにこれは…………暖かい。 「お兄さん! 変なところ触らないで下さい! 通報しますよ!!」 「しょうがねーだろ! こうしねーとバランスが取れねーんだよ!」 あやせが怒るのも無理は無いかもな。俺の左手はあやせの腹から廻してあやせの右の腰をしっかりと抑えてるん だから。でもよ……本当にこうしねーとバランスが取れねーんだよ! 「お兄さん……今日のところは緊急避難だと思って我慢します」 「おお、すまんがそうしてくれ」 足の痛みが退いたのか、身体が温まってきたのか、あやせの表情が和んできた。――――あ~……可愛過ぎる! 「どうだ、あやせ、足の痛みは……少しは良くなったか?」 「はい。だいぶ楽になりました……ただ……」 そこまで言って、あやせは何故か言い淀んだ。 「どした? 何か言いたい事があるんじゃないのか?」 「お、お兄さん……もう少しその……ギューと抱いて下さい」 任せろあやせ! と言える程……俺は女の扱いに慣れてねーよ! 俺の体温が急上昇して行くのが分かる。 「こ、この位でいいのか?」 「はい。ありがとうございます……あと、お兄さん……信じていますから」 あやせ…………お前の『信じていますから』ってのは何だ? 俺の理性を崩壊させ無いための御札? 「なあ、あやせ……。俺に抱かれ……じゃなくて……こんなんなってて、お前は平気なの?」 「……はい。 ……ぬいぐるみにでも……ダッコされていると思えば平気です」 「……了解」 足の痛みが無くなり身体も温まってきたのだろう、あやせは虚ろな目をして今にも眠りそうだった。 「あやせ……どっちみち明るくならなけりゃ動けねーんだから、今のうちに寝とけ」 「ありがとうございます。……でも、お兄さん……寝てる間に唇を奪ったりしないで下さいね」 あやせの安心しきった微笑を見ると、その言葉に突っ込みを入れる気力も消え失せた。俺はあやせに、耳元で 囁くように言った。 「安心しろ。お前のためにも頑張ってみっから……」 「……お兄さん……信じていま……」 あやせのヤツ……寝ちまったよ。この小悪魔が――いや、ラブリーマイエンジェル。 533 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 15 22.77 ID AkZboO+y0 [15/15] この状況で俺があやせに手など出した日にゃ、無事で家に帰れねーだろうな。こいつとはこの先もずっと…… 今みたいな付かず離れずの関係が続くんだろうか? ……どちらかに恋人が出来たり、二人がそういう関係に なることはあるんだろうか? ――――俺にとっては、お前も妹のひと…… ――――「おい、あやせ……起きろ……」 すっかり寝ちまった。木々から小鳥の囀りが聴こえる。外はまだ薄暗いが、まだ日の出前なのか? 「……おはよう……ございます……お兄さん……」 あやせは口元を手で隠しながら小さな欠伸を一つして、『う――――ん』と言って両手をめいっぱい上に挙げ 大きく背伸びをすると――――ハッ! として、俺を突き飛ばすようにいきなり立ち上がった。 「お、お兄さん! わたしが寝ている隙に……い、如何わしい事はしなかったでしょうね!!」 不覚にも、俺はあやせの可愛い寝顔を見てる間に寝ちまった。だから、俺は平然と言ってやったよ。 「お兄さんは……あやせに、イ・カ・ガ・ワ・シ・イ事なんてこれっポッチもしてね――――よっ!!!」 俺の言っている事なんて聞いてやしねー。あやせは、セーターからキュロットスカート、はてはソックスに至る まで丹念に調べている。服装検査が一通り終わったのか、ハア~と大きく溜息をついて…… 「はい。服装の乱れは無いようですね。安心しました」 「あいよ、あやせ」 も――――やだこの子。何が『お兄さん……信じていますから』だよ。全然信用してなかったんじゃねーか。 「じゃ、そろそろ行くか? あやせ。桐乃やお袋も心配してんだろうから」 「はい! 行きますか! お兄――さんっ!!」 あやせは、可笑しくてしょうがないと言いたげに、満面の笑みを溢しながらそう言った。 ――――俺達が神社の御社を出て行く頃には、外はすっかり明るくなり、早朝の日の光に満ちていた。神社から 林道へ続く小径を再び歩き、元の林道へ戻ったあたりで、遠く朝日を浴びて小走りで駆け寄って来る小さな人影 が俺の眼に映った。 「あ――や――せ―――」 俺より一足先に、その人物をあやせが見止めた。 「桐乃――――――」 俺の妹で……いや、あやせの一番の親友の桐乃だった。桐乃の話によると、昨夜のような濃霧では地元の人間 でも外出は控えた方がいいと止められて、泣く泣く宿に留まったそうだ。 「あやせー、凄く心配したよー。もう足は痛くないの?」 「ありがとう。桐乃ー……もう大丈夫だから……ほら!」 534 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 16 03.47 ID AkZboO+y0 [16/16] そう言って、あやせはその場で少し跳んで見せた。親友に一晩中心配を掛けた事と、こんなにも朝早くから迎え に来てくれたことに感じ入ってしまったのか、あやせは少し涙目に…………いや、桐乃も同じか。 「桐乃ー……心配させちゃって本当にごめんねー」 「ううん、あやせさえ無事なら全然大丈夫だよー」 桐乃はそういって――――ハッ! と何か気付いた様な眼で俺を見た。相手を射[ピーーー]様な凄まじい形相で。 「あ、あんた! まさか……あやせに何にもしなかったでしょうね!!」 「お、俺があやせに……いっ、いったい何するってんだよ!」 この妹様は、実の兄貴に何て事を言いやがるんだよ。俺は妹の親友に手を出す程の変態じゃねーよ。あやせに 手を出す程の勇気を俺は持ち合わせちゃいねーんだよっ!。 俺と桐乃が無言で睨み合っていると、その均衡をあやせが打破ってくれた。 「心配しないで、桐乃。……わたし、お兄さんに何もされてないから。本当だよ! 本当に大丈夫だから」 「あやせー……本当にほんとう? コイツから口止めされてるんじゃないの?」 何この会話。桐乃も桐乃だが、あやせ! お前との昨夜の一部始終を桐乃に話してもいいんだぞ! お前から、 『お兄さん……わたしを抱いて下さい』って言ったのを、よもや忘れたとは言わせねーぞ。 「本当にほんとう……この先にね、小さな神社があってそこに小さな御社があったの。……その中でわたしと、 お兄さんは両側の壁と壁に分かれてね、朝までジッとしてたんだ……だから、桐乃の心配してる様な事は、 何も無かったから……うん」 「んっ……まぁ……あやせがそう言うなら……あたしも信じるけど……」 あやせを信じると言いながらも俺をジト目で見る桐乃。あやせ? 最近、芝居が上手くなったんじゃねーか?」 「まぁ……なんにも無かったんならいいか。安心した。……それよりもあやせ? お腹空いてるでしょ?」 「う、うん……少しお腹空いてるかな?」 取りあえず、あやせのお陰で俺の容疑は晴れたようだがな。――――桐乃? 俺には聞いてくんないの? 「なあ、桐乃……俺も腹減ってんだけどよー」 「あんたは……その辺の草でも食べれてれば!」 なんっなの! この差。あやせは確かにお前の親友だろうけどさー、俺だってお前の実の兄貴だろうーが。 もう少し労わりの言葉があっても良くね。 「あやせー、あたしこれから直ぐに宿に戻っておかあさん達に伝えて来っから! あやせは無事だったって。 そんで、宿の人にあやせの朝御飯……直ぐに用意して貰える様に頼んでみっから!」 「桐乃ー、ありがとう。……心配かけて本当にごめんね」 「いいからいいから。でもでも、あやせ……足首の怪我は後々になって響くから無理しないでね。ゆっくり、 宿まで戻って来ればいいから。……あたしは走ってって先に戻るから」 535 名前: ◆Neko./AmS6[sage] 投稿日:2011/01/10(月) 00 16 38.02 ID AkZboO+y0 [17/17] 流石に元陸上部選手だよ。足首の怪我についても良く解ってんだな。俺はスタスタ走って行く桐乃の後姿に声を 掛けた―――― 「お――い、桐乃――……俺の分の朝飯も頼む――――」 「あんたは――――、草でも食べてろって言ってんでしょ――……ちゃんと……あやせを連れて来てよね――」 行っちまいやがった。宿に帰って、ほんっとに俺の分の朝飯が無かったら……マジ泣くぞ。 「お兄さん、折角のハイキングだったのに……本当にごめんなさい」 「まあ、気にすんな。でもまあ、来る途中の林の中にあった神社に気付いてほんと助かったな」 俺の幼い頃の記憶に、僅かに残っていた近所の神社の面影。薄緑色に見えたのは銅葺き屋根の緑青の色だった。 つまりは銅が酸化してできる錆びの事。昔、桐乃を連れてよく行ったその神社はもう無いがな…… 「あやせ……独りで歩けるか? 手貸そうか?」 「お兄さんって、本当に優しいですね。じゃー……お言葉に甘えて、ちょっとだけ腕に掴まらせて下さい」 遠慮がちに……俺の左腕に掴まりながら、『お兄さん? ……ちょっとだけお耳を貸して下さい』と言うので、 俺は何の気無しにあやせが立っている左側に小首を傾けた。 ――――あやせは少しだけ背伸びして……俺の耳元で囁いた。「お兄さんの……い・く・じ・な・し」 (完)
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01-057 心理探査 イベントカード レアリティ ★★★ <サイコキノとサイコメトラー>: カードを2枚引く。
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744 :名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 01 28 36.46 0 舞台稽古の休憩時間。そっと稽古場を抜け出して、私は屋上へやって来ていた。 屋上の扉を背中を預けながら、真っ暗な空をぼんやりと眺める。 ぷかりと浮かぶ片側が欠けたお月様が、私の足元を照らし出し、昼間よりも曖昧な影がコンクリートで固められた屋上の床に伸びている。 初夏とは言えまだまだ夜は冷える。 頬を撫でたひんやりとした風から身を守るように、羽織ったパーカーのファスナーを引き上げた。 今回の舞台は初めての事ばかりだ。 グループで活動していた時も一人で舞台に出させてもらった事はあったけれど、今回は、本当に“新垣里沙”としての初めての舞台という事もあって、またそれまでとは気持ちが全く違った。 だから、これまで以上に気合を入れて挑んでいるのだけれど、そう簡単に全てが順調に進むわけもなく。 頑張ろうと思う。頑張りたいと思う。 精一杯今できる最高のモノを出していきたい。 そう思えば思う程、私は乾いた音を立てて空回っていた。 特に今日の稽古は燦々たる結果だった。 求められた事が返せない。台詞も動きも感情も、全てが中途半端。 皆は大丈夫だよと優しく励ましてくれるけれど、今はそれが逆に辛くて苦しくて居た堪れなかった。 はあ、と知らず零れる溜め息。 ふと、あの子の声が聞きたくなった。 無邪気に嬉しそうに私を呼ぶ、あの子の声が。 パーカーのポケットからiPhoneを取り出し、慣れた手つきで立ち上げて、あの子の番号を表示させた。 あの子からのメールは相変わらず毎日のようにくるけれど、それでも稽古中の私に気を遣っているのか電話はここ最近はほとんど貰っていない。 私が卒業した今、頻繁に会うなんて事も叶わないから、なんだか随分とあの子の声を聞いていないような気がした。 745 :名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 01 29 54.88 0 表示された名前を撫でる。 こんな時に声が聞きたくなるだなんて、本当にどうしようもないなと思った。 どうしようもなく、……好きなんだなと、改めて自分の気持ちを確認してしまう。 別に慰めてほしいなんて思っていない。 ただ、あの子の溶けそうな声を聞きたかった。ただ、名前を呼んでほしかった。 そうしたら、頑張れそうな気がしたから。 だけど、年上で先輩だというちっぽけなプライドが、通話ボタンをタップするのを躊躇させて、私の親指はiPhoneの上でゆらゆらと揺れた。 それにきっと、こんな時に電話なんてしたら心配させてしまう。私の状況の変化に、あの子は人一倍敏感だった。 それにあの子だって、新曲発売前だしイベントだって重なってるし、大変な時期なのには変わりない。 声は聞きたい、だけど。 親指をゆらゆら揺らして、やっぱり止めようとiPhoneをオフにしようとした、その時だった。 手にしたそれがぶるぶると震え出して、危うく取り落としそうになる。 慌てて持ち直して画面を見れば、つい今しがたまで、電話をかけようかかけまいか迷っていたあの子の名前が映し出されていた。 鼓動が小さく跳ねる。 普段はKYな癖してこんな時だけタイミングが良いだなんて、と電話の内容も把握していないのに少しだけ悔しくなって、私はきっちり3コール後に通話ボタンをタップした。 iPhoneを耳に押し当てると、「にいがきさん?」と一番聞きたかった生田の甲高い声が鼓膜を打った。 それだけでまた鼓動が早まって、悔しい。 「あ、今、大丈夫ですか?」 「だめ」 「えっ、あっすみませ……っ」 「うそうそだいじょぶだよ」 悔し紛れにからかったら予想通り素直な反応が返ってきて、口元が柔く緩んだ。 もー!と怒ったようなニヤけたような声を聞きながら、後頭部をことりと扉へくっ付けて夜空を仰ぐ。 746 :名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 01 30 36.71 0 「なんか用だった?」 声を聞きたくて電話しようか迷っていたのは私自身な癖に、そんな事一言も口にせずに生田へ問いかける自分は本当にずるい大人だ、とぼんやりと思った。 「用って言うか……、あの、最近電話してないなあと思って」 「うん?」 お月様を眺めながら、相変わらずふにゃふにゃと締まらない生田の声に耳を傾ける。 私も思ってたよ、と素直に言えない事を心の中でごめんねと謝った。 「……新垣さんの声が聞きたくなったんです」 どくり、と心の奥が甘く疼く。 私の鼓膜を打った生田の言葉に、鼻の奥がツンと刺激されるのを自覚した。 普段はKYの癖に。 優柔不断で、へらりと笑っている癖に。 本当に本当に、こんな時だけこんな風に私の欲しい言葉をくれるなんて、ずるい。 iPhoneを持つ手に知らず力が入る。 「生田」 「はいっ」 「いーくたぁ」 「はい」 目と閉じると瞼の裏に、嬉しそうに笑う生田の顔が容易に浮ぶ。 ふにゃふにゃと蕩けた声と、一気に幼くなるくしゃりとした笑顔が、私は好きだった。 747 :名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 01 31 18.85 0 「ねえ、生田」 「はい」 「私のこと、……好き?」 こんな聞き方ずるいとは分かっていたけれど、生田の声を聞いてしまったら、弱った私の心は、どうしてもその先が聞きたてたまらなくなってしまってて。 iPhoneの向こうで、細く小さく息を呑む、音。 「好きです」 返ってきた言葉は、ただただ真っ直ぐに私の心を射抜いた。 射抜いたそこからじわじわと広がる熱い何かが、私の心の温度を上げていく。 「えりなは新垣さんが好きです」 ただ真っ直ぐに、生田はもう一度確かめるみたいに口にした。 確実に私に伝えるように、一字一句なんの間違いもなく伝わるように、そんな声音で。 さも当たり前の事だと言わんばかりの口調で。 「もし、新垣さんがえりなの事を嫌いになっても、えりなはずっと新垣さんが好きです」 矢継ぎ早に発せられた生田の言葉は、段々と必死さが増していって、最後はほとんど叫ぶみたいになってた。 高鳴る鼓動と同時に、肩の力がふと抜けていく。 瞼を押し上げると、変わらない夜空にぽかりと浮かぶお月様がさっきと同じように私を見下ろしていた。 同じ夜空の下で、だけど、自分がさっきとは全く違う心境になっている事を自覚する。 そうして、ああやっぱり、とぼんやりと思った。 749 :名無し募集中。。。:2012/06/29(金) 01 32 03.36 0 ああ、やっぱり。 私が欲しかったのは、慰めでも励ましでもなくて、生田のたった一言だったんだ。 名前を呼べば微笑んで、ふにゃりと蕩けた声でなんの見返りも求めずに好きだと言う、生田の言葉だったんだ。 「生田」 「はい!」 「私も好きだよ」 「はい!……えっ?!いまなんてっ、」 続きはまた今度!と生田の言葉を遮って、通話を切った。 iPhoneの向こう側で、きっとケータイを片手にびっくり顔で固まっているだろう生田を想像して、ごめんね、と心の中で謝りながらも、胸の奥はお日様に照らされたみたいにぽかぽかと温かくなっていた。 これも生田効果なのかと思いながら、ドアから背を離して、うーんと背伸びをする。 そうして、そのまま手をぎゅっと握り締めて、ずっと私を見下ろしていたお月様に拳を掲げた。 「よっし、頑張りますか!」 屋上の扉を開けて、私は一歩を踏み出した。 おわり
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959 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 40 10.29 ID J.VqS.6o あやせ「お兄さん早くしてください」 今日は8月17日、コミケ最終日の2日後だ。 突然だが、俺は今、あやせとふたりきりだ。 ふたりきりで秋葉原に来ている。 大事な事だから二回繰り返しました。 しかしまぁ、状況が状況じゃなければ手放しで喜べたんだけど…… あやせ「ちょっと、お兄さん! 何変な顔してるんですか、気持ち悪い。ちゃんと見てないと見失っちゃうじゃないですか、桐乃のこと」 変な顔で悪かったな。うれしいんだよ、俺はお前といられるだけで。 京介「ああ、悪い。ちょっと考え事だ」 あやせ「ちゃんと見ていてくださいね?じゃないとお兄さんを連れて来た意味がなくなります」 京介「了解。それにしてもあいつらはどこに行くんだろうな」 あやせ「分からないからこうして尾行してるんじゃないですか」 それもそうか。 あやせたんの言葉に頷きつつ、前にいる一組のカップルを見る。 一年前までは冷戦状態だった妹の桐乃となよなよしているけれど、俺と同い年なのにアクセサリーのブランドをひとつ任されている御鏡。 960 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 43 18.36 ID J.VqS.6o ことの発端はあの一言にある。 『今度紹介してあげよっか?あたしの彼氏』 この一言について俺はあやせに相談していた。 あやせ『桐乃に彼氏ですか?売り言葉に買い言葉だと想いますが、実際のところどうなのかは私にも分かりません。私も気になる部分があります。何かあったら教えて下さい。』 その言葉に従いコミケでの出来事を報告しておいた。すると あやせ『御鏡さんはかなり怪しいですね。藤真社長の息もかかってるみたいですし、少し調べてみます。』 これから数分後 あやせ『スケジュールを確認したところ、ふたり揃って休みの日があります。もしかしたらこの日にふたりで出かける可能性があります』 いつだよと問いかけると あやせ『今週末です。尾行しようと思うのですけど、お兄さんも来てくれますよね?』 もちろん!と即答したよ。 あやせ『なんでそんなに張り切ってんですか。まあ、いいです。その日は私は朝から張り込みますので、桐乃に動きがあったら連絡くださいね?』 図らずも当たってしまったあやせの予想。 なんつー女だよ、とは思うけど、絶対口にしない。 したら絶対殺される。 こうして桐乃を尾行、いや尾行というよりもストーキングに近い形で秋葉原へ来てしまった。 ふたりはコミケで偶然遭遇してお互いがオタクであると知っている。 だからこそのこのデートなのだろうか? 京介「普通デートで秋葉原はありえないだろ。」 思ったことがついこぼれてしまう。 あやせ「同感です。あの桐乃がデートだとしても秋葉原に行くなんて。信じたくありません。なのに桐乃ったらあんなに笑顔で・・・」 認めたくない気持ちはよく分かる。 961 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 47 11.70 ID J.VqS.6o 京介「でもよ、なんか距離あり過ぎないか?」 俺とのデートの時は腕組んだしな。 あやせ「そうですか?初々しいころはあのような距離じゃないですかね?それに桐乃が男性の方とお付き合いしたという話は聞いたことがありませんし。 だから、なおさら距離感がつかめなくて当然じゃありませんか?」 京介「そうかなあ?」 桐乃のこういう面についてはあやせの方が詳しいだろうから、何も言いようがない。 そうこうしているうちに桐乃達は建物の中へ入って行く。 あやせ「お兄さん。私達も入りましょう。」 あやせとともに店内へと入る。 夏なだけあって外はかなり暑かったけど、中はクーラーが効いていてかなり涼しい。 ふと隣に目をやるとあやせが立ち尽くしている。 京介「おい、大丈夫か?」 あやせ「へ、平気です!お、おおお、お兄さんに心配されるようなことはありませんから大丈夫です!」 めちゃくちゃ動揺してるじゃねえか。 ま、あやせたんのレアな姿が拝めたから文句はありません。 あやせ「あっ、こんなところでのんきに話している余裕はありません。急いで追いましょう」 そう言って人混みの中を掻き分けて行くあやせ。 読モをしているだけあって、容姿は半端ないものを持っている。 そんな人間がオタクの集まる店の中をひとりで歩いて行く。 必然的にあやせに周囲の目が集まる。 あやせはその視線には気付いてはいないようだ。 その光景に腹が立った。 こいつらにあやせが視姦されてたまるかよ! 京介「あやせ!そんなに焦るな。桐乃の行きそうな所ぐらいは検討が付く。だから、もう少し自分の心配もした方がいい。周りを見てみろよ」 962 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 51 42.41 ID J.VqS.6o 俺の言葉に不満の色を丸出しにしつつも、従い、周囲を見回す。 刹那 あやせ「ひぃっ…… 」 こんな声初めて聞いたよ。 本気で怖がってんな。 これは好感度アップが狙えるイベントではないでしょうか。 桐乃から借りたエロゲーの中から似たようなシチュエーションがなかったか思い出す。 あった! あやせに優しい声をかける。 京介「あやせ。手つなぐか?」 あやせ「な、ななな、なんてこと言うんですか!変態!変態変態変態!最悪です」 京介「あれ?なんで?こういったらうまく行くはずだったのに」 あやせ「何が言いたいんですか?」 光彩の消えた目とドスの効いた低い声で問いかけてくる。 こ、こえぇぇ! 怒ってらっしゃる。 なんで?エロゲーならこの選択肢で間違ってなかったはず! あやせ「お兄さん。黙ってついて来て下さいね?」 怖い怖い。 反論なんてできやしない。 京介「はい」 これが限界だ。 こんなやりとりをしている間に桐乃達を完全に見失ってしまった。 あやせ「お兄さんのせいですからね。ちゃんと責任とって下さい」 964 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 53 43.66 ID J.VqS.6o 京介「責任って、どうすりゃいいんだよ?」 あやせ「絶対に桐乃達を見つけて下さい。それで今回の件は不問にしてあげましょう」 お安い御用! 何年俺があいつの兄をやってると思ってんだ。 大体ここに来ると先ずあいつはエロゲーコーナーに来るはず。 京介「じゃ、エロゲーコーナー行くか」 あやせ「な、なな何考えてるんですか!中学生をエロゲーコーナーに連れて行くなんて非常識過ぎます」 京介「いやでも、桐乃なんか直行するんだぜ」 あやせ「桐乃と私は違います!」 京介「いや、そうだけど。そうだけれども。仕方ないだろ。目的は果たさなきゃいけないしな」 あやせ「そう言われると弱ります。仕方ないですね。行きましょう。絶対にゲームの話はしないで下さいね。その時は問答無用で殴りますから。」 京介「へいへい。」 俺は桐乃に押し付けられてただけだっての! 勘違いすんなよ! あやせ「ついに来てしまいました。い、いかがわしい!」 京介「まだ入ってもないのに決めつけんな。じゃ、行くぞ」 あやせ「はい……」 顔を引きつらせながら恐る恐る足を踏み入れる。 頑張れよ、俺の海綿体(リヴァイアサン) そこには俺たちを四方から見てくるエロゲーエロゲーエロゲーさらにエロゲー…… 当たり前だけど場違い過ぎるだろ! いつも感じてる空気のあやせの分2倍増ぐらいな…… あやせにいたっては あやせ「なっ、これは……」 絶句。 顔を真っ赤にして口をパクパクしている。 965 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 55 21.38 ID J.VqS.6o おーい、あやせさん。モデルらしからぬ顔になっちゃってますよー そう言える訳もなく 京介「あ、あやせ行くぞ。絶対ここにいるはずだから」 あやせ「え、あ、はい。それにしても本当にこんな所にいるのでしょうか。」 京介「間違いないと思うけど」 あやせ「ひゃっ! こ、これなんか箱なのに裸じゃないですか!」 言ってる意味がいまいち分かりませんよ、あやせさん。 京介「まあ、エロゲーだしな。仕方ないだろ」 あやせ「やはり、桐乃はこんなものが大好きなんですね。本当にどうにかしないといけない」 京介「それだけはやめてくれ。あいつの生き甲斐でもあるんだよ」 俺の本音でもある。 桐乃がアメリカに行っていた頃、大好きなエロゲーができなくて精神的に来てた。 それくらい本気ですかエロゲーを愛しているんだ。 京介「だからあいつからエロゲーを取ったらどうなるか想像もつかないしよ」 あやせ「ですけど!やっぱりこういうのはいけないと思います!」 前もやったろこのやりとり。 京介「そうだけど、桐乃自体に悪影響を及ぼしてる訳じゃないし。その証拠に俺だって……」 あやせ「お兄さんだって?」 京介「いや、何でもない」 何もされてないなんて 言えない言えない!絶対に言えない。 言ってたら、今ごろ地面にキスしてんだろうな。 966 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 20 57 45.27 ID J.VqS.6o あやせ「すごく怪しいです。何かよからぬことを考えてた目でした」 やばい。やばいよこの子。 なんで分かんの? 地雷だらけじゃねーか。 京介「そ、そんなこと、ねーよ」 あやせ「そんな詰まって言われても説得力ありません。この件についてはまたいづれ追及させてもらいますので、覚悟して下さいね?」 京介「ああ、分かったよ」 情けねーな、俺。 しかし、これだけ見てるのに桐乃の姿がない。 京介「あいつら一体どこ行ったんだ?」 あやせ「私が知る訳ないじゃないですか!」 そうだけど、そうだけども。 京介「とにかく次の所行ってみるか」 渋々俺の言葉に頷くあやせ。 こういう表情も最高だぜ! 京介「じゃ、次はフィギュアかな?いつも違うから分からないけど、行って見よう」 あやせ「はい。次こそは絶対いますよね?」 正直、分かりません。 1番自信のあった所にいないとなるともうどこも似たようなものだ。 エロゲーを抜け、フィギュアのある所へと向かう。 途中、あやせがポスターを見て顔をしかめることがあったが、これは見ない振り。 だって、不用意に突っ込んだらなんて言われるかわかんねーもん。 京介「ここだな」 目の前には大量の美少女フィギュア。 全部が全部俺らを見ているような気がする。 967 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 00 04.10 ID J.VqS.6o あやせはというと、再び目を見開いて硬直。 京介「おい、あやせ。行くぞ」 あやせ「はい。でも、これ位ならいいかな……」 京介「いや、そうでもないぜ。そうだな、この女の子を下から覗いて見たらわかる」 そういうとあやせは恐る恐る女の子の頭を指で挟み、自分の目線の高さへと持ってくる。 その光景に俺はにやける顔を抑えられない。 あやせ「お兄さん、その顔やめて下さい。気持ち悪いです」 分かってる、分かってるけど止められない。 あやせ「さては何か怪しいことでも企んでるんですね。いいです。のってあげましょう」 そう言って、女の子の無駄に短いスカートの中を覗く。 すると、また顔を真っ赤にして右腕を振り上げる。 刹那、左頬に乾いた音とともに衝撃。 痛ってぇ! あやせ「こ、こここ、この子履いてない・・・ 下着はいてないじゃないですか!何てもの見せるんですか!変態!桐乃にもこういうことを強要しているんでしょう?最低です。死んだほうがいいと思います」 みんなが驚いてこっちを見てるじゃねーか。 恥ずかしくないのかよそんな大きな声でまくし立てて。 尾行中の身だから、目立ってはいけない。 京介「あやせ。一旦出るぞ。それからもう一度やり直しだ」 あやせ「うるさいです!変態!話しかけないで下さい」 そう言ってひとりで歩き出すあやせ。 これはまずい。 とにかく説得を! 京介「俺達は桐乃達の尾行をしている訳だろ?お前、ひとりであいつらの行きそうな所分かるのかよ」 あやせ「分かるわけないです。だから、お兄さんを連れて来たんじゃないですか。それなのにあんなことさせて・・・酷すぎます!」 確か最後は自分の意思で行ったよな。 968 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 04 21.83 ID J.VqS.6o 京介「悪かった!まじですまない」 あやせ「許しません」 えぇー、なんだよ。恥を忍んで頭を下げてんのに。 京介「あー、いい。行くぞ。外に出よう。もう一度考え直しだ」 あやせ「信じられる要素が微塵もありませんが、分かりました」 それで一旦建物の外にいる。 暑い。まじで暑い。 あやせに嫌われるし、 腹も減ってきたし…… 京介「あー、もう。最悪だよ」 あやせ「それは私の台詞です」 京介「なあ、あやせ。飯食わねーか?」 あやせ「嫌です」 即答ですか。 京介「腹減ってきついんだけど」 だってもう1時過ぎてるぜ? 健康な男子高校生はとっくにペコペコなんですよ。 あやせ「少なくとも桐乃達を見つけて、桐乃達もご飯を食べたら私達もご飯にしましょう」 京介「先が長いよ」 ここで桐乃を見つけなければ昼飯抜きもあり得ると。 どんだけ鬼畜なんですかあやせさん。 さてどうしたものか。 こんな時頼りになる秋葉原に詳しく、桐乃のことをよく知り尽くしているヤツ…… 969 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 07 45.00 ID J.VqS.6o 沙織か…… 電話するか。 京介「ちょっと待っててくれ。知り合いに桐乃の居そうな所を聞いてみる」 あやせ「例のオタク友達ですか?」 京介「ああ、そうなるな」 さて、出てくれるかな。 1コール目、2コール目、3コール目、4回目に入ろうとした所ででた。 京介「出たー!!」 沙織『何事でござるか、京介氏。何故にそのような異常なテンションで?』 京介「お前だけがたよりなんだよ!」 沙織『ふむ。何があったでござるか?』 京介「ああ、そうだった。桐乃が居そうな所を教えて欲しい。コミケの時に会った御鏡っていたろ?あいつと出かけて、尾行してたんだが見失ってしまった」 沙織『ははあ、ようは愛しい愛しい妹がぽっと出のやわ男に連れて行かれて、シスコンの兄が現在ストーキング中だと』 なんでそういう風に捉えるかな! 京介「違げーよ!妹の親友もいるんだよ」 沙織『その子は口実を付けるための保険的な』 京介「断じて違う。そろそろさ、真面目に答えてくれねーかな?」 あやせが怪しい物を見るような目で見て来るのですが…… 沙織『そうですな。確か今日はメルルのイベントがあるはずでござる。多分、現在京介氏らがいる所は時間潰しに寄っただけかと』 おー、さすが沙織だ。オタク的なこととなると無類の強さだな。 沙織『まー、もともと拙者がきりりん氏に教えて差し上げたのですが』 さっきの俺の感心を返せ! 京介「それはどこでやってんだ?」 沙織『教えて差し上げましょうぞ。京介氏、現在地はーーー』 970 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 10 24.54 ID J.VqS.6o 京介「あやせ!分かったぞ。もうここにはいない。メルルのイベントがあるらしくてそこに行ってるらしい」 あやせ「本当ですか?正直なところ信じられません。メルルのイベントなら加奈子やブリジットのところに連絡が来るはずですが」 京介「大丈夫。今電話してたやつは1番信用できる人間だからな」 あやせ「お兄さんがそこまで言うなら信用してみましょう。それでもいなかったらどうなるか、分かりますよね?」 やっぱ怖ぇよあやせさん。 身体が震えあがるぜ。 あやせ「何してるんですか。早くして下さい。急がないとまた分からなくなりますよ」 京介「あぁ、そうだな。急ぐぞ」 秋葉原のとあるホール。 大きいお友達の声が外まで漏れている。 あやせ「何度来ても気持ち悪いですね」 このホールには前にも来たことがある。 一度はメルルEXフィギュアを取りに、もう一度は加奈子の付き添いでだ。 しかし、この空気にはどうしても混じれない。 熱気がな、違うんだよな。 どこにこんなエネルギーがあるんだよってくらい。 あやせ「とにかく桐乃を探しましょう。それから次の事も考えましょうね、お兄さん?」 京介「了解。」 そう言って周りを見渡すものの、桐乃らしき茶髪が見当たらない。 見つけなくていい時は直ぐにみつかるんだけどなぁ。 あやせ「桐乃見つかりましたか?」 京介「いや、まだだ」 なんか前に来た時よりも人が多い気がする。 何?3期決定で人気再上昇なのか? それはそうと早いとこ桐乃を見つけ出さねーと。 971 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 12 21.94 ID J.VqS.6o えーと、茶髪茶髪ー、茶髪の女はどこにいる? あやせ「早くして下さい」 えっと、あやせさん、なんでそんな怖い声でいうのでしょうか? ちょうどその時、メルルのOPが流れ始めた。 歌声に合わせて微かに聞こえてくるどこぞの女の猫なで声。 間違いない、この声は桐乃だ。 この間、うちで開いたメルル鑑賞会の時聞いた声と全く同じだ。 京介「声はするんだけど、どこにいるんだか」 あやせ「声が?桐乃の声ですか?」 京介「あぁ、音楽にのって微かにな。もしかしたら結構近いかも」 あやせ「まさかさっきから音源とズレて聞こえて来てるやつですか?どこかで聞いた事あると思ってたら、桐乃だったんですね」 意外と耳がいいんだな。 あやせ「いま、失礼なこと考えてませんでしたか?」 エスパーかっ!? 京介「そんなことねーよ。とにかく曲が終わる前になんとかして方向だけでも特定しねーと」 あやせ「頑張って下さい」 投げやりだな、おい。 京介「やろうって気持ちはないのか?」 あやせ「だって私にはほとんど聞こえてないんです。だから、仕方ないんです」 そう言って、ニコッと微笑む。 この笑顔を見るだけで許したくなってしまう。 女ってさ、ズルいよな…… 京介「よし!任せろ!」 そう言ったものの、曲は残りわずか。 そして、数十秒後、終わった。 972 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 15 02.04 ID J.VqS.6o 聞き取れなかった。 くそっ、英語のリスニングよりも難しいんじゃないか、これ。 あやせ「お兄さん、できました?」 京介「いや、できなーー “おぉぉぉぉぉぉぉ!!メルル可愛えぇぇぇ!!” 大きいお友達の揃った声に押しつぶされれる。 その声が消えた後、よく響く声で 桐乃「メルル可愛いよー!お持ち帰りしたいよー!あぁぁ!もう、最高!」 恥ずかし過ぎるだろこいつ。 だけど、おかげですぐに位置を確認できた。 ちっ、御鏡のやつまだ桐乃といやがる。 しかも、御鏡までもが桐乃の行為に引いてるし。 あやせ「前回来た時も桐乃はこんな感じでしたね」 京介「家でもそうだよ」 この間なんかエロゲーしながら叫びまくってたしな。 あやせも完璧に桐乃の位置を特定し、監視しやすい位置に移動を開始。 やばい、腹が限界かもしれねぇ。 京介「飯食いたいんだけど」 あやせ「我慢して下さい」 京介「無理だ」 あやせ「ですから、桐乃達が食べたらって言いましたよね?」 いや無理だよ。 おなかとせなかがくっつくよ! あやせ「我慢して下さいね?」 ニコッと微笑むがもうその笑顔には負けねーぞ。 973 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 17 13.65 ID J.VqS.6o 京介「早く終わんねーかな」 あやせ「……」 必死なんだな。 ほどなくしてイベントも終わり、桐乃達も会場をあとにする。 あやせ「行きますよ、お兄さん。次は絶対に見失うわけにはいきませんからね?」 京介「分かってる」 あやせ「期待はしてませんけど」 じゃあ、なんでそう言って来たんだよ。 わけ分からん。 まあ、いいけど。 京介「こいつら帰るつもりか?」 あやせ「駅のほうに向かってますね」 このまま帰ってくれればありがたいんだが、せっかくあやせと2人きりなのにもったいない気もする。 あー、もう!やり切れねーよ。 あやせ「もう、完全に帰るようですね」 もったいないもったいない。 あやせ「お兄さん?元気ないですよ?どうしたんですか?」 京介「このままあいつらが帰ったら、あやせとこうして2人きりじゃなくなるじゃんか、それが悲しくて」 あやせ「な、なな、なんでですか!一体何を期待してたんですか!?」 京介「あやせの好感度UP!」 あやせ「絶対に上がりません。お兄さんのことは嫌いですから」 京介「そんなにはっきり言わなくても……」 あやせ「本気で落ち込んでるし……」 そんなこんなで地元の駅に到着。 なんとここまで御鏡がついて来ている。 974 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 19 29.11 ID J.VqS.6o ちっ、どうせ “家まで送りますよ” なんて言ったんだろうな。 腹が立つ。 あやせ「御鏡さんもここまで来ましたね。どういうつもりでしょうか」 京介「送りに来たんじゃねーの?」 あやせ「彼氏としては当然ですけどね」 京介「あやせ、家まで送って行こうか?」 あやせ「結構です。私はひとりで大丈夫です。逆にお兄さんが隣にいるほうがよっぽど恐ろしいですし」 なんて言いようだよ! くっそー、なんか本当に傷つくわ! 京介「そこまで言わなくてもいいじゃねーか」 あやせ「お兄さんは私に全く信用されてませんから」 もう、いいよ。 それ以上言わないでくれ。 死にたくなって来るだろ? 京介「はいはい」 自分にメンタルのためにも適当にあしらう。 さてさて、桐乃達はどうしてるか…… ちょうどどこかの店に入って行ったようだ。 あやせ「ケーキ屋さん。私や桐乃が加奈子を連れてよく行く所ですね」 京介「ケーキ屋……だと?」 桐乃の擬似デートの時にきた所だ。 あいつらは何を考えてるんだよ? あやせ「持ち帰るようですよ」 975 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 21 42.50 ID J.VqS.6o 京介「なんで分かるの?」 あやせ「私達は常連ですよ?分からないわけ無いじゃないですか」 京介「なるほどな」 あやせ「中に入らないで外で出待ちしましょう」 京介「そうだな。つーか、なんのためにケーキ買うんだよ」 あやせ「お土産とかじゃないですかね?ケーキは生ものですから、近場で買わないとすぐにだめになりますし」 京介「へえ、お前はなんでも知ってるな」 あやせ「なんでもではありません。知ってることだけです」 ん?んん? このやり取りどこかで聞いたことがあるような? あやせ「あ、出てきました」 ケーキ屋から出てきた桐乃の手には少し大きめのケーキの箱が握られている。 あいつ、あんなに食うのかよ。 太るぞ。 あやせ「行くようですね。家に着くまでが尾行です!あと一息です」 お前の中じゃ尾行は遠足と同じ括りの中にあるんだな。 京介「なあ、あやせ。もしだぜ、もし御鏡が桐乃と一緒にうちに入って行ったらどうする?」 あやせ「ッ!? そんなこと考えてませんでした。十分にあり得ますよね!」 本気で動揺しているようだ。 あやせ「その時は、その時は……」 そう言ったっきり顔を伏せる。 あやせの表情は隣に立つ俺の目線からは伺えない。 気になるから問いかけてみる。 京介「その時は?」 あやせ「わ、私を、私を……」 976 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 24 28.43 ID J.VqS.6o 京介「あやせを?」 こんな様子のあやせを俺はいままで見たことがない。 あやせ「やっぱり何でもありません!忘れてください!」 顔を伏せたまま言い放つ。 俺はどうすればいいのか全く分からない。 本当にこんなことは初めてだった。 あ、でも、エロゲーだったらこんな状況があったかもしれない。 しかし、相手はあやせだ。 常識は通じない可能性が高い。 京介「そうか、分かった」 あやせ「聞き分けがいいですね……」 語尾が少し震えている。 理由は全く分からないがとりあえず 京介「無理すんなよな」 これだけ言ってみる。 あやせ「やっぱりお兄さんは優しいです。初めて会った時と同じ……」 あやせ「私と桐乃がケンカした時だって、自分を私の敵にすることで、仲直りさせてくれて……」 京介「あやせ?何を……」 突然のあやせの変調に戸惑ってしまう。 あやせ「聞いて欲しいんです。最後まで聞いていて下さい」 京介「あやせの気がすむまで聞いてやるよ」 あやせ「ありがとうございます。お兄さんはこんなに優しくしてくれるのに……私はお兄さんのこと嫌っているのに、私の相談を受けてくれたり……」 当たり前じゃねーか。 お前も俺の大切な人間なんだ。 あやせ「今だってこんな妹の尾行をするなんて嫌なことを押しつけられてるのに、私のことまで気遣ってくれて……」 977 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 26 40.58 ID J.VqS.6o あやせ「本当はお兄さんには感謝してるんですよ。でも、やっぱりいちどとってしまった態度は変えられなくて……」 あやせ「いつまでもお兄さんを気持ち悪い人扱いし続けて……」 あやせ「本当はお兄さんのこと好きなんですよ!お兄さんが思っている以上には」 これまで1番望んでいたはずの言葉なのに俺はあやせの姿にどうしたらいいのか立ち尽くす。 夏の太陽が俺達ふたりをジリジリと照らし続ける。 少し傾いた太陽の影になっている顔からあやせの表情は見て取れない。 しかし、俺にはもう十分だった。 言葉はしっかり伝わった。 京介「もう、いいよ。あやせの気持ちはよく分かった」 あやせ「絶対嘘です。私はずっとお兄さんを騙し続けてたんですよ?いいんですか……?」 京介「いい、それでいい。でもさ、今は先にやることがある。そうだろ?」 あやせ「はい…… 終わったら少しお時間を下さいね…… お兄さんにはやっぱり言っときたいことがあります」 京介「分かった。何でも言ってくれ」 あやせ「はい!」 京介「じゃ、あと一息だ。頑張るか」 あやせ「はい、やりましょう!」 頑張るとは言ったけれども、そもそもこのストーキングもとい尾行は何のために行われたんだ? 桐乃の彼氏にいて、今日はふたりでデート、でその彼氏が御鏡だったと。 こいつは正しいよな? なのにここまで付いてくる必要はあったのだろうか? あまり深入りしなくてもいいような気もするけど…… やっぱりふたりの関係ははっきりさせておきたいというところだろうか。 ふたりの関係? 御鏡は擬似カップルになってた俺達兄妹を別れさせるためにあてがわれた可能性がある。 桐乃とはふたりで会ったこともあるし、コミケでの偶然の出会いもある。 979 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 28 34.30 ID J.VqS.6o よくよく思い出してみるとあの時の態度はどうも彼氏彼女のそれじゃなかった。 たかが2日空いただけで、そんなに大きく事態が変わるとは思えない。 いやまあ、世の中にはそんな人間もいるかもしれないけど、少なくとも桐乃にはそんな芸当はできない。 長年、あいつの兄貴やってる俺の勘ではあいつらは付き合ってはいない。 こいつを踏まえて今日のふたりの様子を振り返ってみると、確かに付き合ってるようには思えない。 会話こそは自然そうに見えたものの、どうも付き合ってるような距離感というか、親密感というかそういいのが欠けていたような気がする。 京介「なあ、あやせ」 ずっとだんまりと考え込んでいた俺が唐突に話しかけたせいか、あやせは少し驚いたようで あやせ「な、なんですか?」 と少し声が上擦っている。 京介「今日さ、あいつらを尾行してみて付き合ってるように感じたか?」 あやせ「え?そうですね。少なくとも私には付き合ってるように見えました」 京介「多分、思い込みのせいでそう感じてるんだと思う」 あやせの思い込みの強さは一級品だからな。 京介「聞いてくれ、あやせ。俺の推理を」 あやせ「名探偵気取りですか?いいですよ。お兄さんの名推理、じゃなくて迷推理を聞かせてください」 ん?なんか悪い方に言い換えられたような…… しかし、そんなのはもうどうでもいい。 俺の名推理であやせのハートをがっちりキャッチだぜ! 京介「結論から言う」 京介「あのふたりは付き合ってはいない」 あやせ「分かりましたから、そう判断した理由を聞かせてください」 京介「桐乃と御鏡、このふたりは知り合ってからまだ日が浅い」 あやせ「世の中にはそういう人達もいますよ?」 京介「少なくとも桐乃はそんな人間ではないだろ?これはあやせもよく知ってるはず」 980 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 30 42.82 ID J.VqS.6o あやせ「確かにそうだと思います。でも、それだけだとものすごく弱いですよ?」 京介「焦んなって。俺はコミケの最終日に御鏡と会っている。桐乃を交えて会話もした。 その時の印象は仲はまあまあいいけれど、そういう関係になるほどは感じなかった。桐乃に引っ張られている、そんな印象しか受けなかった」 あやせ「はい、それで?」 京介「それで今日のふたりの態度だよ。 距離はあるし、なんか桐乃の表情も好きな人といると言うよりも、 同じ趣味を持っているし、自分と同じ世界で仕事をしている人間と一緒にいるという安心感があるようにしか見えないし」 あやせ「それはお兄さんの思い込みのような……」 違うのさ、あやせ。 俺にはとっておきの一言がある。 正直、自分で黒歴史をほじくるのもいやだけど、仕方がない。 よく聞けよ。 京介「俺はあいつとのデートの時は腕を組んだからな!」 どすっ! あやせの右腕が一瞬で俺の鳩尾に叩きこまれた。 京介「うぐぁっ」 息が、息が出来ねえ。 あやせ「なんてことしてるんですか。桐乃に手を出したらどうなるかってちゃんと言ってたはずですよ?」 京介「でもよ、考えてもみろ。大っ嫌いって言ってる俺と腕組めるのに、なんで大好きな彼氏と腕くめないんだよ」 あやせ「確かにそうですけど、そうですけど……」 まだ、納得がいかないか。 京介「でもよ、桐乃の性格を考えると、好きな人と腕を組めないなんてありえない」 あやせ「そうです。桐乃なら本当に好きになった人には夢中になって、きっとずっとその人から離れようとしないと思います」 納得してもらえたみたいだな。 あやせ「そして、桐乃と御鏡さんが付き合っていないとしてこれからどうするつもりですか?おふたりは家に入って行ったようですよ?」 なにっ!?家にだと! 俺が推理を垂れている間に、家の前だよ。 くそっ、想定し得る最悪のパターンじゃねえか。 981 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 32 22.04 ID J.VqS.6o あやせ「どうしましょう?さすがに家に入られると私は手が出せません」 さて、どうしたものか。 さっきの推理のせいで何も対策を考えていなかった。 京介「俺の彼女としてうちに入って……」 あやせ「却下です」 京介「なら、あやせが桐乃を説得するとか」 あやせ「なんで私に丸投げするんですか?お兄さんがしてください」 お前は俺に丸投げしたじゃん。 京介「分かった。じゃあ、お前は俺の部屋で待っていてくれ。まじでヤバそうな時には助けに来てくれるとありがたい」 あやせ「分かりました。そうしましょう。それとお兄さんの部屋にいる上で触って欲しくない所とかありますか?」 京介「棚の1番上の引き出しの……」 はっ!しまった。 つい普通に答えてしまった。 移したばかりのエロ本の隠し場所! 慌ててあやせを見ると、ニヤニヤした顔で あやせ「単純ですね、お兄さん?」 と一言。 死にてえ。 少し緊張がほぐれたところで、あやせを部屋に招きいれ、待機させる。 あやせ「じゃあ、お兄さん、安心して行って来て下さい」 少し不安にさせるセリフを聞いて自室を出る。 あやせを連れて部屋に来た時はお袋の声が聞こえていたが、今は聞こえない。 買い物に行ったのだろうか、桐乃と御鏡の声しか聞こえない。 しばし、リビング前に立ち止まって、心を落ち着かせる。 京介「ふぅっー」 983 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 34 33.76 ID J.VqS.6o 大きく息を吐き、リビングのドアに手をかける。 刹那、ドアが開いて御鏡が現れる。 トイレにでも行くつもりだったのか? 知ったこっちゃねーけどな。 御鏡「あっ、京介くん、お久しぶりです。」 京介「ああ、そうだな」 なんで俺戦う相手と普通に挨拶してんの? 御鏡の声に反応してか、桐乃が出てくる。 桐乃「ちっ、あんた、帰って来てたんだ。どうせ今日も地味子と図書館行ってたんでしょ?」 尾行してたのはばれてないみたいだ。 京介「まあ、そんなところだ」 しまった! とっさに嘘をついてしまった。 京介「いや、違う」 桐乃「はあ?じゃ、何してったて言うの?」 京介「お前達ふたりについて話がある」 桐乃「なんなのいきなり、会話を混ぜないで欲しいんですケド。あたしはあんたなんかに話はないし。彼氏が来てんのに野暮ったいことしないでよね」 彼氏って言い張るか。 本当はそうじゃないだろ。 いつまでもそう言い続けるんなら その幻想を俺がぶち[ピーーー]! ふっ……このフレーズもどこかで聞いたことがある気がするぜ。 京介「御鏡、お前達今日、どこか行ったのか?」 桐乃「そんなことあんたには関係ないでしょ!」 京介「お前には聞いてない。どうなんだ御鏡?」 桐乃「ちっ」 985 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 36 36.84 ID J.VqS.6o 桐乃は面倒臭そうに顔をしかめる。 御鏡「まあまあ、桐乃さん、落ち着いて。確かに僕達は今日出かけましたよ。」 京介「どこに?」 御鏡「秋葉原です!」 ここまで全く矛盾点がない。 つまり、突っ込みどころがないのだ。 御鏡「秋葉原ってすごいですね!初めて行ったんですけど、たくさん物があって、すごく興奮しました!」 そんなに力説されてもこちらのイライラが募るだけなんだが。 御鏡「他にもメルルのイベントにも行って来ました。あの熱気はすごかったです。あと桐乃さんのテンションにもびっくりさせられました」 あー、うぜえうぜえ。 落としやすそうだからって、御鏡を標的に選んだのは失敗だったか。 やはり、感情的になりやすい桐乃を狙うべきだったな。 京介「桐乃、お前はどうだったんだ?」 桐乃「別に。いつも通りだし」 なんでこんな時に限って、こんなに冷静なんだよ。 こんな流れでは切り札さえ切れない。 どうにかして会話で引き寄せなければ。 この会話だとどうしてもオタトークで終わってしまう。 そこで俺は本題を切り出すことにする。 京介「お前らはさ、その、付き合ってんのか?」 桐乃「当たり前じゃん。つーか、そんなことわざわざ聞かなくたって分かるでしょ、ふつー」 うっぜー、まじで腹立つわこの女。 986 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 38 13.65 ID J.VqS.6o 京介「御鏡、本当か?」 御鏡「ええ、そうです。僕は桐乃さんとお付き合いさせてもらってますよ」 崩れねーな。 どんだけ忠実なんだよ、こいつは! 京介「どうもさ、ふたりが付き合ってるようには見えねーんだよ」 桐乃「はあ?何言ってんのあんた?人の恋に口出ししないでよね、このシスコン!シスコンが重症化して、妹に彼氏ができるわけないなんて思っちゃってるんでしょ? あー、キモいキモい。さっさとどこか行ってくんない?」 京介「シスコンじゃねーよ!」 耐えろ、俺! 桐乃「だってあんたこの間、昼間から『俺はシスコンだぁぁぁ!!』って叫んでたじゃん」 京介「そ、それは違ーよ」 桐乃「どこがどう違うのよ?」 反論の余地がねえ。 くそっ、こうなったら仕方ない。 京介「付き合ってるって証拠でもあるのかよ?」 絶対に言いたくなかった一言。 一歩間違えれば、全てが終わりになってしまう一言。 桐乃「あるよ。前にも言った通り手も繋いだしキスもした。だから簡単」 そう言って桐乃は御鏡を見上げ、そっと顔を近づけて行く。 俺はそれを止めることが出来ずにただ見つめることしか出来ない。 顔と顔が近付き…… ちゅっ 中学生らしい初々しい触れるだけのキス。 余韻を楽しむように見つめ合う桐乃と御鏡。 それをただ驚いた表情で見つめる俺。 しばし、静寂が続くと思っていた矢先 987 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 40 03.28 ID J.VqS.6o あやせ「桐乃!何してるの?なんでキスなんかしちゃうの」 お前、見てたのか!? 2階からあやせが降りて来る。 途端に桐乃の顔が蒼ざめる。 桐乃「え、あ、あやせ?なんでうちに?まさか全部聞いてた?」 あやせ「当たり前じゃない。どういうことなの?本当に御鏡と付き合ってて、桐乃の意思でキスをしたの?嘘だよね?嘘だと言ってよ!ねえ、桐乃!」 去年のコミケに帰りに出会った時よりも怖い。 あやせ「嘘、嘘嘘嘘嘘嘘!桐乃がこんなに簡単に人前で恥じらいもなしにキスするわけない!私の前にいる桐乃は桐乃じゃない!」 桐乃「そんなことない!私は御鏡の事が好きだもん!一緒にいたいってそう思うもん!私の趣味にも理解あるし、それに、それに……」 あやせ「それに、何?」 桐乃「すっごく優しいの」 あやせ「桐乃は去年から、お兄さんの優しいところが好きだって言ってたじゃない!それでも、それでも、桐乃は御鏡さんんを選ぶの!?」 桐乃「当たり前じゃん!あたしの彼氏、そう!彼氏なんだし!」 あやせ「そう、じゃあ、お兄さんは私が貰うから!私だってお兄さんの事好きだった。だけど、桐乃も好きだったでしょ?だから、遠慮してたんだよ。 でも、桐乃は御鏡さんを選んだ。だったら、お兄さんは私が貰っていっても文句はないよね?」 桐乃「……や…… いやだ。絶対にいや、いやいやいやいやいや!」 あやせ「何?ふたりとも欲しいの?そんなこと許されるはずないでしょ?分かってるよね、ねえ、桐乃?」 あやせ「お兄さんか御鏡さんかのうちで桐乃は御鏡さんを選んだ。だったら、私がお兄さんと付き合う権利はあるよね?」 桐乃「そんなの、いやだ……いやだよ、ねえ、あやせ。なんで?なんでこんなことするの?」 あやせ「桐乃のことが心配だからに決まってるでしょ!」 そう言って、辛そうな目をして俺を見つめて来る。 前髪のかかった双眸にはうっすらと涙が溜まっているようだった。 桐乃「あたしがいつまでもあんたの保護下にいる必要はないでしょ!」 あやせの表情がくもる。 あやせ「そう、だけど……やっぱり桐乃には……」 桐乃「あー、もう!うざいうざい。ちょっとかわいいからって、馬鹿兄貴から言い寄られてるからって、調子乗りすぎなの、あんた! 出てって、早く出てって!二度とうちに来んな!」 988 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 41 40.77 ID J.VqS.6o あやせ「そう、じゃあもう私達は赤の他人なんだよね?だったら、この家のモデルしてる女の子の部屋の棚の中には、大量のいかがわしいものがあると言ってもなんの問題もないってことで。 仮にそれが他人に知られても、情報を漏らしたのは赤の他人ってこと」 そう言って、俺の腕をとるあやせ。 京介「ちょっ、あやせ……」 言葉が出ない。 なんて言っていいのか分からなかった。 こんなことになる予定じゃなかったはず。 あやせ「お兄さん、行きましょう。私の家に来てください。こんな女がいると嫌でしょう?これからはずっと私が一緒にいますから。 何があっても絶対に私だけはお兄さんのそばにいますから。だから、私と来てください。お願いします!」 あやせが俺の手を引く。 しかし、俺は動けない。 あやせが必死な目で俺を見つめて来る。 ふたりとも俺の大切な人間だ。 桐乃は俺のたったひとりの妹。 あやせはそんな妹の大親友。 そんな大切なふたりの仲を引き裂いてしまった。 あやせ「さ、お兄さん早く行きましょう。こんな忌々しい場所から早く立ち去らないと……」 あやせは俺ではなく、桐乃を見ながら言う。 しかし、桐乃はその視線に気付くわけでもなく、顔を背けている。 御鏡もどうしていいのか分からずに、ただ桐乃の肩を抱くだけ。 俺は半ば引きずられるようにあやせの家へと連れていかれる。 家を出た時 あやせ「じゃあね、桐乃」 消え入りそうな声でつぶやいた。 あやせ「ごめんなさい、辛い思いをさせて」 京介「いや、あれは俺のミスだよ。あの時あんなことさえ言わなければ……」 あやせ「いいえ、お兄さんは悪くないです。悪いのはあの女ですから」 990 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage] 投稿日:2010/12/19(日) 21 43 24.28 ID J.VqS.6o あやせ「さ、私の家に急ぎましょう」 あやせの部屋に入る。 ついこの間、ここに来た時はかなり嬉しかったのに、今日はそんな気持ちではない。 変わらないであるのは石鹸のような淡い香り。 俺は床に座り、あやせは部屋の中央に俺に背を向けて立っている。 おもむろにあやせは棚の上に飾られているあるひとつの写真立てを手に取り、見つめ、辛そうに表情を歪めたと思うと、意を決したようにそれを投げた。 部屋のドアに当たり、ガラスが砕け、音をたてて床に落ちる。 音とともに聞こえてくるすすり泣く声。 それがあやせのものだと直ぐに分かる。 あやせ「お兄さん……辛い思いをさせて本当にごめんなさい……」 これはあやせの本心であろう。 しかし、俺は桐乃のことが心配でならない。 あやせ「安心して下さい。どうせあの女は海外に逃げるでしょうから、これからはあの女の分まで、いや、それ以上にお兄さんの事を想い、 お兄さんのためだけに生きて行きますから、ずっと私と一緒にいてくれますよね?絶対に離れませんからね。これからもずっと一緒です。 私はお兄さんのことが大好きですよ。お兄さんはどうですか?もちろん好きですよね?『結婚してくれ』なんて言って来てた位ですしね。 それに『愛のこもちゃプロポーズだ』とも言ってましたし。答えはもちろんOKです。あの時は断ってしまいましたが、そう言うしかなかったんです。 でも、もう失ってしまったものがある以上、また得るものがあってもいいですよね?」 間髪いれずに話して来る。 あやせの気持ちも分かるけど、俺はやっぱり…… あやせ「……だから、お兄さん、私と一緒にずっと一緒に、生きてください」 これ以降しばらくは家には帰らなかった。 いや、帰れなかった。 あやせが“あの女がいる家に行かせるわけにはいきません”との姿勢を崩すことがなかったからだ。 その後、俺が初めて家に帰ったのは家に帰ったのは桐乃が海外に行ったという知らせを受けてからであった。 終わち!!
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01-034 桃太郎 001 キャラクターカード ATK 2000 DEF 2000 ESP レアリティ ★★★ 所属 P.A.N.D.R.A フィールド能力: フィールドにあるあなたの「兵部 京介」のATK+2000、DEF+2000。
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01-051 兵部 京介 001 サポートカード レアリティ ☆☆★ 所属 P.A.N.D.R.A アウェイク能力: このマスの隣にあるサポートカードを1枚選んで、捨場に置く。その後、このカードを捨場に置く。
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1-087R ケフカ Chapter 1 バックアップ 土 コスト:4 魔道士 (D):あなたのコントロールするフォワード1体を選ぶ。ターン終了時までそれのパワーを+5000する。ターン終了時にそれをブレイクする。 本来一方的に負けるにフォワードを最終的にブレイクされるとはいえ一方的に相手に勝てるようにできるカード。 基本的に低コストのフォワードと相性がよく、土では一般的な2コスト5000のフォワードですら相手の5コスト9000に打ち勝てるようになる。 そのため基本的には低コストフォワードを入れているデッキのほうが効果を活かしやすくて有効だが、もちろん中~高コストのフォワードであっても相手のパンプなどで計算を狂わされた場合に一方的に負けるくらいならとパンプして実質的に相打ちにとるという保険的な使い方をしてもいい。 この効果によってブレイクされるまでにラグがあるため、1-091U タイタンでブレイクを防いだり1-092U ディリータの生贄にして無駄なく活用したりしても良い。 また、基本的にパンプ対象がブレイクされる効果はデメリットだが、逆に意図的にフォワードをブレイクする手段としても有効。 コストの違う一般兵以外の同名カードを複数採用している場合や1-162S セフィロスなどの光闇カードを複数採用していたり同カード再度出したい場合などにケフカでブレイクしてやることで二枚目や他の光闇属性のカードを出してやることが出来るようになる。 当然1-161R ゴルベーザや3-080C 魔法剣士のようなブレイクされることで効果を発揮するフォワードとも相性が良い。 ちなみに、このカードの効果で1-161R ゴルベーザをブレイクした場合、ターン終了時のタイミングで能力が起動し、ケフカの能力によるブレイク処理が発動したあとでゴルベーザのブレイクされた場合の処理が発動する。 この効果にプレイヤーがスタックを積むことはできないので相手にする場合などは注意。 カード別Q A 「このターン、ブレイクされない」という効果を受けているキャラクターにケフカの能力を使った場合、エンドフェイズにケフカの能力でブレイクされません。 関連リンク